#51 来たるべき国家安全保障戦略は日本が目指す国際秩序の姿を示せ 平和・安全保障研究所理事長 德地秀士

来たるべき国家安全保障戦略は日本が目指す国際秩序の姿を示せ 平和・安全保障研究所理事長 德地秀士
日本政府は、厳しさを増す国際安全保障環境に適切に対応できるよう、新たな国家安全保障戦略をつくろうとしている。来年度以降の防衛予算の前提となる防衛力整備計画とセットになっているから、来年度予算編成直前の12月半ばには最終決定がなされるだろう。
あと半年もないが、世間の関心は、相変わらず防衛費の額やGDP比か、AIやドローンの活用など「新たな戦い方」である。戦い方はウクライナ戦争などをみても急速かつ大きく変化しており、これに対応することは必須だから、そのための具体的な方針と計画を経費規模とともに示すことも必要だが、それは防衛力整備の課題である。国家安全保障戦略は、異なる次元で日本の安全保障の道標となるべきものである。
日本に必要なのは、安定的で予測可能な国際環境をつくり出すことである。防衛力もそのための手段である。日本は独力で国際秩序の基調を設定するだけの力はないが、国際環境は大国によって設定される単なる与件ではない。米国が昔ほど頼りにならないからというだけではない。中堅国家も連携を強めれば秩序形成に一定の役割を果たせる。
どういう国際秩序をつくるか、日本が果たす役割は何か、そのためにどう国力を強化するか、それを同志国とともにどう使っていくかを示すときである。
従来日本は、ルールに基づく秩序という考え方を支持してきた。国際社会は、動物園ではないが単なるジャングルでもない。国際社会をジャングルにしないために、ルールに基づく秩序の復活が必須である。それは郷愁ではない。ルールが守られるからこそ国際社会の予見可能性が高まり、それが安定と繁栄を生み出す。
中国は、国際法の権威を守りジャングルの掟に反対すると述べるとともに、日本に対しては「新型軍国主義」のレッテルを貼って、日本を戦後国際秩序に挑戦する危険な存在と描こうとしている。小泉防衛相は、5月末に開かれた国際会議で「核兵器と戦略爆撃機を大量に保有する国が、そのいずれも持たない日本を、『新型軍国主義』と呼んでいるとしたら、おかしいと思いませんか?」と述べた。おかしいに決まっているが、そこで止まってはならない。日本が目指す国際秩序はこういうもので、それを実現するために一緒にやりませんかと国際社会に提案することが必要である。それこそが、次の国家安全保障戦略の重要な役割である。
とくち・ひでし 1955年生まれ。東京大学法学部卒業、タフツ大学法律外交大学院(フレッチャースクール)卒業(修士)。防衛庁入庁。防衛省運用企画局長、同人事教育局長、同経理装備局長、同防衛政策局長、初代防衛審議官を経て2015年防衛省退職。2021年現職。中曽根平和研究所研究顧問。著書に『専制国家の脅威と日本』(共著2023年、勁草書房)『防衛外交とは何か』(共著2021年 勁草書房)、『気象安全保障:地球温暖化と自由で開かれたインド太平洋』(共著、2021年(東海教育研究所)等がある。



