#10 織田邦男「力の信奉者」中国に対峙する方法

「力の信奉者」中国に対峙する方法 麗澤大学特別教授 元空将 織田邦男
中国は「二人のカール」を愛する国といわれる。二人とは「資本論」「共産党宣言」で有名なカール・マルクスと「戦争論」で有名なカール・フォン・クラウゼウィッツである。
二人に共通しているのは、「戦争を政治の延長」とみるリアリストであることだ。また「戦争が止まるときは両者の武力が均衡したときだけである」とも語るように「力の信奉者」でもある。
中国の思考パターンは分かりやすい。常に力関係を瀬踏みし、強い相手であれば静かに時を待つ。相手が弱ければ強く出て決して手を緩めない。中途半端に譲歩しても、中国は決して譲歩しない。それどころか更なる譲歩を求めてくる。
10月27日の西原正先生のコラムにあるとおり、フィリピンが今、中国の圧力に晒されている。フィリピンの沿岸警備隊が中国の海警によって放水を受けたり、衝突されたりしている。公船への放水や衝突などは国連海洋法条約違反である。だが国際条約などはどこ吹く風だ。日本の海上保安庁の巡視艇には決してしないことをフィリピンの沿岸警備隊には実施する。それはフィリピンが弱いからなのだ。
中国は、軍事力を背景に「力の空白」地帯に入り込み、自国の領域を広げてきた。チベット、新疆ウイグル自治区とその版図を広げたやり方を見れば明らかだし、南シナ海もそうだ。1950年代、インドシナから仏軍が撤退するや、西沙諸島に侵攻した。1973年、ベトナム戦争から米軍が撤退するや西沙諸島全域を支配。1980年代半ば、ソ連軍がカムラン湾から撤退するや、南沙群島西側を占拠。1992年、米海軍が在比スービック基地から撤退を決めるや、南沙諸島に侵出し、ミスチーフ環礁を占拠し、スカボロー礁を支配した。この時、中国は領海法を制定し、南沙、西沙群島のみならず尖閣諸島まで中国領土と明記した。今や南シナ海のほぼ全域の領有権を主張している。今後、隙あらば台湾、尖閣、沖縄へと触手を伸ばしてくるだろう。
「困った隣人」と嘆いてもしようがない。今、我々に必要なことは、中国の本質を理解し、行動を予測し、隙を見せず、備えを万全にし、不測事態が起これば右往左往することなく毅然と対応することなのだ。
おりた・くにお 昭和27年愛媛県生まれ。昭和49年防衛大学校卒業(18期)、航空自衛隊に入隊、F4戦闘機操縦者として第6航空団(小松)に勤務。第301飛行隊長(新田原)、第6航空団司令、航空幕僚監部防衛部長を経て航空支援集団司令官を最後に退官。米国空軍大学留学、スタンフォード大学客員研究員。退官後東洋学園大学客員教授を経て、令和4年から現職、元空将。令和4年、瑞宝中綬章を受章。令和4年より産経新聞「正論」執筆メンバー。第38回正論大賞を受賞。



