#53「核廃絶」を叫ぶだけでは日本を「核」から守れない 麗澤大学特別教授 元空将 織田邦男

「核廃絶」を叫ぶだけでは日本を「核」から守れない 麗澤大学特別教授 元空将 織田邦男
小泉進次郎防衛大臣が「核についてタブーなく議論しなければ、安全保障を確立することはできない」と発言し、メディアや被爆者団体から批判を浴びている。だが議論すること自体を封殺して国民の命は守れるのだろうか。
言うまでもなく、核廃絶は人類の究極の目標である。一昨年、日本原水爆被害者団体協議会(被団協)がノーベル平和賞を受賞した。その長年の営みには深く感謝と敬意を表したい。だが他方で、核廃絶が実現するまでの間、現実に核の脅威は存在する。その核から国民を如何に守るかも真剣に考えねばならない。唯一の被爆国であることは、核攻撃を免れる特権でも何でもない。国際社会はそれほど甘くはない。
日本は今、中国、北朝鮮、ロシアという三つの独裁国家による核の脅威に直面している。中国は核搭載可能な中距離弾道ミサイルを千発以上保有し、北朝鮮は「日本列島は核爆弾によって海に沈められなければならない」と公言して憚らない。
他方、米国の「核の傘」の信頼性は揺らいでいる。バイデン政権が開発を中止した海洋発射核巡航ミサイル(SLCM―N)は、トランプ第二次政権で開発が再開され、2030年代に攻撃型潜水艦への配備が予定される。中国、北朝鮮の核から日本を守る核抑止戦力のリニューアルが図られようとしている。
日本近海で日夜、警戒監視を続け、日本に「核の傘」を提供している米艦艇が、米兵休養のため日本に寄港する際、我々は非核三原則を盾に「米艦艇寄港お断り」と言えるのか。「持ち込ませず」は、昨今の中国、北朝鮮が核軍拡を想定していなかった。だが、これが日本防衛の現実である。日本の態度如何によっては日米同盟の存続さえ危ぶまれる。
拡大核抑止は、米国の「核の傘」が日本防衛に確実に及ぶと相手に信じさせて初めて成立する。日米協議を増やすだけでは核抑止の信頼性は向上しない。2030年代に登場するSLCM―Nを見据えた核の議論は待ったなしである。小泉大臣の発言はその第一歩に過ぎない。
理想としての核廃絶を追求しながら、現実として国民を核の脅威からどう守るか。この両立こそ唯一の被爆国の宿命であり、国民一人一人が真剣に考えなければならないことである。
おりた・くにお 昭和27年愛媛県生まれ。昭和49年防衛大学校卒業(18期)、航空自衛隊に入隊、F4戦闘機操縦者として第6航空団(小松)に勤務。第301飛行隊長(新田原)、第6航空団司令、航空幕僚監部防衛部長を経て航空支援集団司令官を最後に退官。米国空軍大学留学、スタンフォード大学客員研究員。退官後東洋学園大学客員教授を経て、令和4年から現職、元空将。令和4年、瑞宝中綬章を受章。令和4年より産経新聞「正論」執筆メンバー。第38回正論大賞を受賞。



