#44 国際社会の正義と米国 村井友秀

国際社会の正義と米国 東京国際大学特任教授 村井友秀

 世界の歴史を振り返ると、世界は力と利益と正義で動いてきた。力で動く世界は弱肉強食の世界であり、大国にとって都合がよく弱小国には不都合な世界であった。利益で動く世界は必然的に貧富の格差を生み、貧しい国では不満が蓄積し世界は不安定になった。これに対して弱小国や貧しい国の不安や不満を低減させるメカニズムが正義である。正義が広まれば、世界の不安と不満は低下し世界は平和になる。人間は本能的に不平等を嫌う。例えば心理学の「最後通牒ゲーム」では、A(自分の取り分が1、相手の取り分が9)とB(自分の取り分が0、相手の取り分が0)という選択肢を提示した時、世界の9割の人はBを選ぶ。合理的に考えれば、Aならば1の利益があるがBならば利益は0であるから、Aを選択することが合理的である。しかし人間は不平等を嫌い、不利益であっても平等を選択する傾向がある。力も利益もない正義が人の心を動かすのは人間の本能だからだ。

 現代世界の正義は国際法である。イランを攻撃した米国は国際法に則っているか。国連は戦争を不法行為としている。但し3つの戦争は例外である。すなわち①自衛権の行使②国連決議による武力行使③民族自決の独立戦争―である。今回の米国によるイラン攻撃は独立戦争と関係がない、国連決議もない。米国はイラン攻撃を自衛権の行使と主張している。

 自衛権の行使には3つの段階がある。①自国を攻撃する意思がある敵を自国が攻撃される前に攻撃する予防戦争②自国に対する敵の間接的軍事行動が始まった段階で敵を攻撃する先制攻撃③自国に対する敵の直接的武力行使が開始された後に反撃する戦争―の3つである。

 米国は今回の攻撃を、未来のある時点でイランが核兵器を使って米国や同盟国を攻撃することを封じるための攻撃と説明している。これは①予防戦争であり、現在の国際法では自衛権の行使と認めない見解が多数派である。また、戦争前に米国に対するイランの直接的な軍事行動は見られず、②または③の説明も難しい。「国際法は気にしない」大統領が指揮する米国のイラン攻撃は国際法に違反する可能性が高い。

 米国は単なる大国ではなく世界のならず者を排除する正義の味方であるという認識が世界に対する米国の影響力を支えてきた。米国は正義の味方ではないと考える国が増えれば、米国を世界の覇者と認める世界秩序は根本的に変わることになる。

むらい・ともひで 1949年生まれ。1978年東京大学大学院社会学研究科国際関係論博士課程退学。米国ワシントン大学国際問題研究所研究員を経て、防衛大学校国際関係学科教授。2015年退官後現職。日本防衛学会名誉会長。主な著書に『失敗の本質』『中国をめぐる安全保障』『戦略の本質』『戦略論大系7毛沢東』『現代の国際安全保障 安全保障学のフロンティア』『日中危機の本質』等多数がある。平和安全保障研究所奨学プログラム2期生、平和・安全保障研究所監事・研究委員。

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