#18 五味俊樹③

五味俊樹(東京国際大学特任教授)
第二次トランプ政権が発足して約50日が経過した。米国では大統領就任後100日間を「ハネムーン期間」として、国民、政治家、メディアは新大統領に辛辣(しんらつ)な批判を差し控えるのが慣例となっている。しかし、トランプ政権に限っては真逆の状況にあり、むしろ新大統領のほうが慣例を破って前民主党政権をこき下ろしている。昨年11月の選挙によって、共和党は、大統領、上下両院で多数を占め、いわゆる「トリプル・レッド(和製英語・Red trifecta)」政治的果実を得た。加えて、最高裁判事9人のうち6人が共和党系と目されている。トランプ氏は三権を掌握したことで、あたかも「絶対君主」のごとく、自分の意のままに華々しい「政治ショー」を繰り広げている。
ところで、トランプ大統領の傍若無人な振る舞いはどこから来るのだろうか。その原点は、父親の不動産業を手伝っていた青年時代に求められよう。見習いのトランプ青年に不動産取引の極意を伝授したのは、辣腕(らつわん)弁護士のロイ・コーン氏である。その術[art]とは、①相手を攻撃・脅すこと②自分の非を認めないこと③勝利を主張し続けること―であった。爾(じ)来、トランプ氏はこの秘伝を「武器」として、ビジネスのみならず政治の世界でも成功をおさめてきた。これが、「ディール」の達人を自負するトランプ大統領の言動を理解するカギである。
トランプ大統領の政治・外交運営は、「ディール」以外の何ものでもない。これまでのところ、トランプ氏が掲げる対外政策の主要な柱は二つある。第一は、高関税政策を駆使した貿易赤字の削減・製造業の復活・労働者階級の復権である。第二は、軍事力を背景にした安全保障・経済・技術・資源などの覇権ないし権益の拡大である。前者の主な標的は、中国、メキシコ、カナダ、EUであり、後者のそれは、デンマーク領グリーンランドの買収、パナマ運河の奪還、カナダの51州化などである。そして、政策実現のために使われる外交手法はまさに秘伝の交渉術であり、攻撃的かつ威圧的姿勢に満ち溢(あふ)れている。また、政策の中には、帝国主義時代にまかり通った列強の特殊権益的要求も含まれている。いまや、トランプ流の高圧外交によって、第二次世界大戦以後、米国が主導した「法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序」は瓦解(がかい)の危機に瀕(ひん)している。
トランプ大統領が損得勘定に基づく徹底した実利主義者であるかぎり、当面、米国政府に自由民主主義世界を守る指導的役割を期待することは難しい。それどころか、トランプ氏が実利を得るためにプーチン氏や習近平氏といった権威主義者と「握手」する可能性も排除しきれない。その一端をトランプ大統領によるロシア・ウクライナ戦争の停戦工作におけるロシア寄りの姿勢に垣間見ることができよう。
こうしたトランプ氏による大国中心の「ディール」外交を目の当たりにして、ミドルパワーとしての日本はどのように対応すべきであろうか。今日、日本はロシア・北朝鮮・中国の三方面から軍事的脅威に晒(さら)されている。日本が単独で対処するのは極めて難しく、米国の後ろ盾は必要不可欠である。したがって、たとえトランプ氏の無理難題に遭遇したとしても、日米同盟を揺るがす事態だけは避けねばならない。そのためには「虎の尾」を踏まずにトランプ氏を説得する柔軟かつしたたかな外交術が求められよう。同時に、日本の自立性を高めつつ、リスクヘッジの意味合いで、ヨーロッパ、アジア太平洋の友好国と、安全保障上の連携強化をはかることが肝要である。
ごみ・としき 1948年生まれ。1979年上智大学大学院外国語学研究科国際関係論専攻博士課程退学。玉川大学助教授、米国ハーバード大学ライシャワー研究所客員研究員を経て、大東文化大学法学部教授。2019年退職後現職。主な著書に『増補 国際関係のコモン・センス』『現代アメリカ外交の転換過程』『新安全保障論の構図』『9・11以後のアメリカと世界』『アメリカがつくる国際秩序』等がある。



