#37 五味俊樹(東京国際大学特任教授)⑥

五味俊樹(東京国際大学特任教授)
 今年11月7日の高市首相による台湾有事をめぐる国会答弁をきっかけに、中国が猛烈に反発、日中関係は危機的状況に陥っている。日中両国政府の主張は真っ向から対立し、双方の歩み寄りは非常に難しく、いわば「チキン・レース」の様相を呈している。

 対立の発端となった高市首相の答弁要旨は次の通りである。①中国北京政府が台湾を完全に支配下に置くために、例えば、海上封鎖をする。②封鎖を解くために米軍が来援する。③北京政府は「戦艦」などを使って米軍に対して「武力行使」をする。④そうした状況は日本の「存立危機事態」になり得る―とした。

 思うに、高市首相は、「新平和安全保障法」(2015年)を念頭に日本が集団的自衛権を行使する場合、その要件の一つである「密接な関係にある他国への武力攻撃の発生」の具体例を示したのであろう。その意味では、既存の法律に則ったものであり、発言内容に非があるわけではない。

 しかし、たとえ仮定のケースとはいえ、中国による「台湾統一」と日本の「存立危機事態」を結びつけた発言が、北京政府を激怒させたのは疑う余地はない。なぜならば、中国にとって、「台湾統一」は中国内戦の最終ゴールであり、「核心的利益」だからである。

 一方、台湾の人々の大多数は中国に組み込まれることを望んではいない。にもかかわらず、北京政府は台湾の現状維持を求める声には耳を傾けず、力づくでの「統一」も辞さない構えを崩さず、むしろ陰に陽にその姿勢を強めている。

 そうした中台関係の現状において、日本と米国はきわめて難しいかじ取りを迫られている。その最大の理由は、日本と米国が各々、1972年と1979年に外交関係を台北から北京へと移した際の中国との取り決めに起因する。
 すなわち、日米両国は、「中華人民共和国政府が中国の唯一の合法政府であることを承認」したうえで、「台湾が中華人民共和国の領土の不可分の一部である」という中国の立場を、日本は十分に「理解」、「尊重」し、米国は「認識」(acknowledge)したのである。日本も米国も「台湾は中国の一部であること」に同意したわけではないものの、台湾の法的地位に積極的関与する立場にはない。

 ただし、米国は、1979年4月10日、国内法として「台湾関係法」を制定し、二つの条項によって、中国の行動に歯止めをかけようとした。すなわち、第一に「平和手段以外によって台湾の将来を決定しようとする試みは、合衆国の重大な関心事と考える」、第二に「防御的な性格の兵器を台湾に供給する」と定めた。

 日本が、台湾の民意に寄り添うためには、憲法第九条によって、米国と同様の対応は難しい。中国の軍事・経済・情報などによる威圧的行動/工作を考慮すれば、日本の有効な手立ては、日米同盟のいっそうの強化にほかならない。しかし、一抹の不安材料は米国の動向である。12月4日に公表された第二次トランプ政権の「国家安全保障戦略」(NSS)は、中国批判を避けつつも、「台湾をめぐる紛争の抑止は優先課題の一つ」と位置づけ、「米国は台湾海峡でのいかなる一方的現状変更も支持しない」と記している。また、12月17日には、総額111億ドルにのぼる台湾への新たな武器売却を決定した。その意味で、「台湾関係法」の精神は揺らいでいない。ただし、経済的利益を最優先させるトランプ大統領がこの姿勢を堅持する保証はない。日本としては、大統領の突然の態度変更への備えも必要であろう。

ごみ・としき 1948年生まれ。1979年上智大学大学院外国語学研究科国際関係論専攻博士課程退学。玉川大学助教授、米国ハーバード大学ライシャワー研究所客員研究員を経て、大東文化大学法学部教授。2019年退職後現職。主な著書に『増補 国際関係のコモン・センス』『現代アメリカ外交の転換過程』『新安全保障論の構図』『9・11以後のアメリカと世界』『アメリカがつくる国際秩序』等がある。

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