#34  「存立危機事態」騒動に思う 織田邦男

「存立危機事態」騒動に思う 麗澤大学特別教授 元空将 織田邦男

 「汝、平和を欲するなら戦争に備えよ」という箴言がある。古代ローマから伝えられて来たものである。これは世界の常識なのだが、日本では必ずしもそうではない。日本で「戦争に備えよ」と言おうものなら、必ず非難の声が上がる。だが、古代ローマから歴史の淘汰に耐えてきた箴言は真理である。

 今、高市総理の答弁が話題になっている。中国による台湾武力侵攻があった場合、「存立危機事態が起こりうる」と述べた。これに対し、中国がヒステリックに反応し、野党は発言を取り消せと要求している。

 「存立危機事態」を簡単に言えばこうだ。中国が台湾武力侵攻し、もし防衛に駆け付けた米軍が中国に攻撃され、日本の存立が脅かされて国民の権利が根底から覆るような事態になった場合、日本は集団的自衛権を行使して武力行使ができる。そういう事態が「起こりうる」と高市総理が述べたわけだ。

 これに対し、中国がヒステリックに反発したのは、自衛隊が米軍と共に関与すれば中国の台湾武力侵攻が失敗する可能性が高くなるからである。米国のシンクタンクが実施したシミュレーション結果でも出ている。

 武力侵攻が失敗に終わる可能性が高ければ、中国は台湾侵攻を実施しないだろう。つまり、抑止力が高まるのだ。古代ローマの箴言的に言えば、「存立危機事態が起こりうる」として「戦争に備えて」おけば平和が保てるということなのだ。

 だが、案の定「戦争に備えるなどとんでもない。取り消せ」の大合唱である。これに悪乗りしたメディアが煽り立てる。こと戦争や軍事のことになると、日本は冷静さを失い、感情的になる。典型的なのが、日本学術会議が「軍事研究をしない」と宣言していることだろう。平和のためとは言うが、「軍事研究」をしないでどうして平和を創造できるのか。日本の頭脳が集まるといわれる日本学術会議だが、安全保障の逆説性がどうしても理解できない。

 医学を勉強すれば病気になるから医学を排除すると言えば愚かさは理解できる。消防車を持ったら火事になるという馬鹿さ加減も分かる。だが、軍事研究をすれば戦争になるという愚かさには気が付かない。戦争や軍事になると途端に理性を失ってしまう。

 戦後80年だが、未だに敗戦のトラウマが理性を妨げている。先の大戦も理性を失って、のめりこんだ面があるのを忘れてはならない。そろそろ理性と常識でもって安全保障を考える時ではないか。「存立危機事態」騒動を見てつくづく思う。

おりた・くにお 昭和27年愛媛県生まれ。昭和49年防衛大学校卒業(18期)、航空自衛隊に入隊、F4戦闘機操縦者として第6航空団(小松)に勤務。第301飛行隊長(新田原)、第6航空団司令、航空幕僚監部防衛部長を経て航空支援集団司令官を最後に退官。米国空軍大学留学、スタンフォード大学客員研究員。退官後東洋学園大学客員教授を経て、令和4年から現職、元空将。令和4年、瑞宝中綬章を受章。令和4年より産経新聞「正論」執筆メンバー。第38回正論大賞を受賞。

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