#29 川上高司「米国の国家防衛戦略と沖縄 NDSから読み解く台湾有事と日本の対応」

米国の国家防衛戦略と沖縄―NDSから読み解く台湾有事と日本の対応 川上高司
トランプ政権の国家防衛戦略(NDS)の概要が約80ページの最終草案として8月末に発表された(文章は機密扱い)。NDSは5月にピート・ヘグセス国防長官から策定を指示されていたものであった。NDSは今後、審査と国家安全保障局(NSC)の調整を経て10月に最終的に公開される予定である。
NDSは最上位の戦略指針であり、米国が同時に関与できる紛争の数を決定し、この概念は予算配分、部隊配置、軍隊近代化の指針となる。NDS2025には国土防衛、中国抑止、同盟国・パートナー国との負担分担拡大、防衛産業基盤の活性化四つの主要な柱がある。
NDSの草案はJD・バンス副大統領の演説やエルブリッジ・コルビー国防次官の『拒否戦略』を参考にしていると報じられている。副大統領が外交・防衛政策にこれほどの影響力を持つのは異例だ。ヴァンスは抑制的な外交政策を示唆して欧州諸国が自らの安全保障を担うよう促している。欧州のロシアからの脅威を軽視する一方、欧州の米国依存を軽減すべきだとする。また、執筆者のコルビーは「優先化派」の中心人物で、中国に焦点を当てた拒否戦略を提唱する。コルビーは、台湾は中国にとり最も脆弱で戦略的に重要な標的と位置づけ、中国が台湾を併合すれば、地域の力関係全体を損なうドミノ現象を引き起こし、米国の安全保障と繁栄を脅かすと警告している。
また、国防省は2026年度の予算要求を公表したが、前年度から1000億ドル以上の増額を見込み、海軍(海兵隊含む)と空軍(宇宙軍含む)の圧倒的伸びとなっている。中でも、核戦力や爆撃機、戦闘機、水上艦、潜水艦、ミサイルなどの大型装備の開発取得が目立つ。陸軍予算はドローンやミサイルなど装備の近代化は重視されるものの、大きな伸びはない。
以上から、トランプ政権は、インド太平洋における対中抑止で、海空戦力やミサイル・ドローンを増強し、陸上戦力を合理化する方向と考えられる。となれば欧州や韓国の駐留陸軍の縮小化となるが、海空軍と海兵隊が中心の在日米軍への影響は少ない。
このため、今後の日米間の主要な論点は、在日米軍の兵力態勢見直しより、いかに日本に負担分担を求めるかに集中することが予想される。
米政府は同盟国に「他の脅威への対処を主導」し、「米本土防衛強化とインド太平洋地域での中国抑止のため直ちに行動する」ことを要請している。脅威対処のための作戦基盤となるのは日本である。本土からの爆撃機やミサイルだけで台湾有事は阻止できない。台湾有事において、米国は台湾有事の「OPLAN(戦争作戦計画)」を多数準備し、日本がどの程度「プランイン(戦略参加)」できるかを確認していて、今後はそれに基づき負担分担の協議が日米間で行われることになろう。台湾有事となれば、同時に沖縄や九州の米軍基地や自衛隊基地を標的としたサンバー戦や認知戦が展開され台湾への出撃を阻止しようとするだろう。米軍は戦争準備態勢にすでにはいっている。米政府の焦点はどの程度日本政府、自衛隊・警察・海保が初動対処(グレーゾーン対処)が可能であるかにある。できねば米軍独自のOPLAN発動となり、それは次期政権の喫緊の課題となろう。
かわかみ・たかし 1955年熊本生まれ。元拓殖大学教授。現在、中央大学法学部講師、一般社団法人日本外交政策学会理事長、石破内閣で外交安全保障担当内閣官房参与を兼務。大阪大学国際公共政策博士、ジョージタウン大学留学、米フレッチャースクル研究所研究員、ランド研究所客員研究員を経て、中曽根世界平和研究所研究員、海部俊樹元総理の政策秘書、防衛省防衛研究所主任研究員、北陸大学教授から拓殖大学海外事情研究所所長を経て現職。その間、外務省の国際問題研究所客員研究員、神奈川県庁参与、参議院外交防衛委員会客員調査員、TBS News Bird特別キャスターを兼務。



