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米中ロが触手を伸ばす「北極」 なぜ氷に閉ざされた地で地政学・地経学的な価値が高まるのか

北極はかつて、厳しい自然環境に阻まれた遠隔地として認識されてきた。

しかし、気候変動による海氷の減少、米中対立の激化、ロシアと西側諸国の関係悪化、重要鉱物やエネルギーをめぐる競争を背景に、その戦略的重要性は大きく高まっている。北極はもはや環境問題や地域協力だけを論じる場所ではなく、軍事、安全保障、国際物流、資源供給を左右する地政学・地経学上の重要地域となりつつある。

中国とロシアの戦略的連携の裏側に潜む危うい関係…中央アジアと北極圏で主導権争い

第一の要因は、海氷の減少によって海上交通と資源開発の可能性が変化していることだ。北極海では、夏季を中心に航行可能な期間が広がり、ロシア沿岸を通る北極海航路や、カナダ北方の北西航路などへの関心が高まっている。

北極海航路は、条件によってはアジアと欧州を結ぶ航海距離を短縮し、スエズ運河など既存の輸送経路への依存を補完する選択肢となる。紅海など中東の海上交通が地政学的緊張に左右されるなか、代替経路を確保する意義は大きい。

ただし、北極海航路が既存の主要航路を直ちに置き換えるわけではない。海氷や天候の急変、砕氷船への依存、港湾・通信・救難体制の不足、保険料や運航費用、ロシアの管理規則などが制約となる。現状ではロシアのエネルギー輸送が重要な位置を占めており、世界のコンテナ輸送の主流となるには課題が多い。

重要なのは、北極海が単なる近道ではなく、国際物流の選択肢と交渉力を左右する戦略空間になっている点である。

第二の要因は、エネルギーと重要鉱物の確保である。北極圏には石油、天然ガス、ニッケル、コバルト、希土類など、産業や防衛技術に不可欠な資源が存在する。脱炭素化や先端技術の発展に伴い、電池、電動車、半導体、風力発電設備、軍事装備に必要な鉱物の安定供給は各国の経済安全保障に直結する。

とりわけ精製・加工工程で中国への依存が大きい資源について、供給源を多様化する観点から北極圏への関心が強まっている。ただし、埋蔵資源が豊富であることと、採掘を商業的に成立させられることは別問題だ。厳しい気象条件、インフラ整備費、環境保護、先住民の権利、投資回収の不確実性が開発を難しくしている。

第三の要因は、軍事・安全保障上の重要性である。北極圏はロシアの戦略核戦力や北方艦隊が活動する地域であり、北米と欧州を結ぶ北大西洋の防衛にも関係する。ロシアによるウクライナ侵攻後、北極圏でもロシアと北大西洋条約機構(NATO)加盟国との対立が強まり、監視能力、軍事拠点、潜水艦の活動、早期警戒体制の重要性が増している。

フィンランドとスウェーデンのNATO加盟も、北欧・北極圏の安全保障環境を変化させた。北極は大国間の軍事的抑止と戦略的競争が交差する地域なのである。

第四の要因は、中国の関与拡大だ。中国は2018年に自国を「近北極国家」と位置づける政策文書を公表し、北極海航路、資源開発、科学調査などへの関心を示してきた。ロシアとの経済協力も、エネルギー供給や輸送網の面で重要性を増している。

各国の国益が絡み合う「北極」 日本も無関係ではない地域の動向

日本にとっても北極の動向は無関係ではない。エネルギーや重要鉱物の調達先を多様化し、海上輸送の選択肢を確保することは、経済安全保障の観点から重要である。北極海航路の発展は物流上の機会を生む一方、ロシアの政策や米中対立、環境規制によって企業活動が左右されるリスクも伴う。

北極の価値が高まっているのは、氷が減って航路や資源へのアクセスが変わるだけではない。そこに物流、資源、軍事、技術、国際秩序をめぐる競争が重なっているからだ。

今後の北極政策では、経済的な利益だけでなく、安全保障上のリスク、環境保全、国際法、地域住民の利益を総合的に考える必要がある。北極をめぐる競争の帰趨(きすう)は、地域の将来にとどまらず、世界の供給網と大国間関係にも影響を及ぼすだろう。

文/和田大樹 内外タイムス

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