発生から27年…桶川ストーカー殺人事件で冤罪訴える「首謀者」が手紙につづった獄中生活の悲哀
〈お元気でしょうか? 私は元気もありません〉(2026年10月14日付手紙)
今月中旬、筆者のもとに届いた便せん2枚の手紙はそんな書き出しで始まっていた。差出人は、小松武史(60)。いわゆる「桶川ストーカー殺人事件」の“首謀者”として検挙され、千葉刑務所で無期懲役刑に服している男だ。
元交際相手の男らから凄絶(せいぜつ)な嫌がらせに遭っていた大学2年生の女性、猪野詩織さん(当時21)が1999年10月26日、JR桶川駅前で男の配下の者に刺殺された「桶川ストーカー殺人事件」は当時、大きく報道された。ストーカー規制法が制定されるきっかけになったことでも知られる大変有名な事件だ。
人知れず冤罪を訴え続ける桶川ストーカー殺人「首謀者」、5月に棄却された再審請求の中身
だが、猪野さんの元交際相手の男の兄で、事件の「首謀者」とされる武史が冤罪(えんざい)を訴え、再審を求めている事実は意外に知られていない。そのためか、事件を取材してきた筆者が本サイトで8月19日、武史の冤罪主張の内容や再審請求の現状を伝えた記事は思いのほか、多くの方に関心を持っていただけた。
その武史が事件から27年になるタイミングで送り届けてきた冒頭の手紙には、獄中生活の悲哀が率直な言葉でつづられていた。本人も公開を望んでいるので、ここで紹介させていただきたい。なお、武史の手紙はわかりにくい記述も多いが、すべて原文ママで引用した。
「助けて欲しいです」切実に訴えるイジメ被害
8月19日の記事でもお伝えした通り、武史は冤罪を訴え続けているものの、歳月が過ぎる中で弱気になり、「お金もないし、再審請求は今回で最後でしょう」などと手紙に書いてくるようになった。今回の手紙でも「元気もありません」などと書いているのは、以下のようなことがあったかららしい。
〈私の報告は、ココの教育が、教育のスイセン本である官本(引用者注・刑務所内で受刑者が借りられる本)があるのですが、何とショックなことに、2冊、①被害者の声が聞こえますか と ②突然おそわれる…とゆう、私の名前から、事件の事、被害者の事も全て、出ている本を、本来なら、個人で差し入れても入らない本が教育がスイセンして貸し出している事が分りました…他の人達から私も訊いて知り、ショックです…〉
調べたところ、手紙に書かれた2冊の本「被害者の声が聞こえますか」と「突然おそわれる…」はいずれも見つからず、2冊の正しい書名はそれぞれ「犯罪被害者の声が聞こえますか」(東大作、講談社)と「いきなり誰かが襲ってきたら?――突然の暴力犯罪から身を守る方法」(黒木昭雄、草思社)だった。
いずれの本にも桶川ストーカー殺人事件のことに言及があり、後者には武史の実名も記されていた。武史がこのことを「ショックです…」とつづってきたのは、次のような事情があるからのようだ。
〈こうゆう事がイジメのエスカレートする第一番なのです…受刑者達は、いかにして、集団で1人をイジメていくのが楽しくてしょうがないのです…〉
〈そうゆう、くだらない、ヨウチな所です…〉
刑務所では、「性犯罪者」が他の受刑者たちにいじめられがちだという話をよく聞くが、有名な事件の「犯人」もいじめのターゲットになりやすいのかもしれない。実際、これまでにも武史が手紙でいじめに遭っていると伝えてきたことは何度かあった。とくに今回は切実にこう訴えてきた。
〈私は、イジメの毎日です。助けてほしいです〉
脈が1分で122回…死を覚悟したような言葉も
今回の手紙では、武史は体調不良も訴えていた。
〈私も体調が悪く、夜も寝れない日が続いてますし、脈が1分で122回、今日も医務で見てもらいましたが、異常です…本当に長くないです…〉
正常な脈拍は1分間に60~100回程度とされており、100回を超えれば「頻脈」と呼ばれ、120回以上であれば、何らかの病気が疑われる状態だと言われる。「本当に長くないです…」という死を覚悟したような武史の言葉も必ずしも大げさではないのかもしれない。
8月19日の記事でもお伝えした通り、武史はたとえ猪野さんが刺殺された事件は本人の主張通りに冤罪なのだとしても、事件前に猪野さんが受けていた嫌がらせには関与しており、完全に潔白な人間ではない。
しかし、筆者は武史のような人間も法の裁きは事実にもとづいて受けるべきだと思い、取材を続けてきた。この機会に事件の真相や、「首謀者」とされる武史の現状に関心を持つ人が少しでも増えるようであれば幸いだ。
文/片岡健 内外タイムス
《メモ》
桶川ストーカー殺人事件 1999年10月26日、元交際相手の小松和人(同27)らからストーカー被害を受けていた大学2年生の猪野詩織さん(当時21)が埼玉県桶川市のJR桶川駅前で刺殺された事件。和人の兄で首謀者とされた小松武史(同33)、和人が営む風俗店従業員で実行犯の久保田祥史(同34)、伊藤嘉孝(同32)、川上聡(同31)の計4人が殺人容疑で逮捕され、武史が無期懲役、他3人は懲役18~15年が確定した。2000年のストーカー規制法成立の契機ともなったが、事件をめぐっては、埼玉県警上尾署による調書改ざんや捜査怠慢が発覚し、警察批判も巻き起こった。






