【演芸諸行無常】春風亭一花の真打ち昇進披露興行 仲間と駆け抜けた「嵐を呼ぶ女」の40日間
40日間に及ぶ長い落語の旅が、無事お開きになった。
2026年10月30日、東京・池袋演芸場。落語協会の新真打ち・春風亭一花師匠(39)の真打ち昇進披露興行が千秋楽を迎えた。終演後に話をうかがうと、「終わった~っていう感じですね。40日間あっという間でした」と安堵(あんど)の笑顔を見せた。
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単独で真打ちに昇進すると、連日トリを務めることになる。体調を崩しても、代演はきかない。
「体力が40日間続くか心配だったんですけど、毎日、(披露)口上を聞くと元気になれる。いろんな人に支えられていることを実感しました」と、周囲への感謝を伝える。
披露興行(以下、披露目と表記)の中盤では、披露口上が行われるのが習わしだ。協会の幹部や師匠がずらりと並び、一花師匠の人柄を笑いを交えながらたたえ、面白いエピソードを披露する。
数日前の口上で、落語協会会長の林家正蔵師匠(63)は、「これだけ台風を連れて来た新真打ちも珍しい」と笑わせた。
40日前、東京・上野鈴本演芸場で大初日を迎えた。大初日と書いて「おおじょにち」と読み、濁る。その後、新宿末広亭、浅草演芸ホール、池袋演芸場と、10日単位で披露目は進む。各席の千秋楽を楽日、「らくび」と呼ぶ。池袋の千秋楽は特別な区切りで、大楽、「おおらく」と呼ばれる。
大初日、台風25号が東京地方を直撃した。祝いの初日は中止になってしまうのか。寄席演芸ファンをがっかりさせまいと、鈴本演芸場の鈴木敦席亭が手を打った。
「長い時間、台風の中、お客さまを並ばせるわけにはいかない」という理由から、昼席を急きょ休席にし、夜席のお客さまが雨に打たれずに待てるよう、昼前から客席を開放したのである。席亭の英断だった。
春風亭一之輔「人柄の話」で苦笑い
台風の中、大初日を迎えた一花は、新真打ちとしての第一声を「嵐を呼ぶ女です」としゃれに変え、客をつかんだ。演じたのは「一門が大切にしている噺(はなし)です」という落語「粗忽(そこつ)の釘」。慌てん坊の旦那が隣家に長い釘を打ち込んでしまう滑稽噺だ。
立ち見も出る大入りとなった大初日、2日目、3日目と私は足を運んだ。その後も新宿末広亭に1日、浅草演芸ホールに1日、池袋演芸場に2日と、40日間のうち計7日間足を運んだ。台風26号、27号、30号がその都度、東京地方に雨を降らせたが、客席は連日満員。どの寄席も立ち見が出るほどの盛況だった。
40日間、仲間が毎日駆けつけていた。落語協会はもとより、落語芸術協会、落語立川流、円楽一門会からも多くの同業者が手伝いに訪れた。一花師匠の人柄がしのばれる。
口上で春風亭一朝師匠(75)は、一花の人柄を「気遣いができる。気が利く子なんです。人間が朗らか。周りを朗らかにする」とたたえ、「そこが(春風亭)一之輔とは違うところ!」ときちんと落とし、口上に並んでいた春風亭一之輔師匠(48)を苦笑いさせた。
さらに一花師匠の成長について「芸度胸がついた。(入門時に)想像した以上に成長した。こんなに素質のある子だとは!」と語り、目を細めた。
40日間、一朝師匠は自身の仕事を調整しながら、すべての口上に並んだ。その労はいかばかりか。大楽で口上の司会を務めた古今亭菊之丞師匠(54)が「一朝師匠にねぎらいの拍手を一つ」と呼びかけると、100人強の観客は、祝福とねぎらいの思いを拍手に込めた。
口上では、基本的に新真打ちを笑わせながら持ち上げる。その中で、一之輔師匠が大楽で述べた言葉は印象深かった。
「抜てき真打ちには責任がついて回る。あしたからは一人の真打ちとして、本当の勝負だと思うので頑張ってほしい」。一花師匠より14年前に抜てきで真打ちに昇進した一之輔師匠ならではの、実感のこもった言葉だった。
定席での披露目は無事にお開きとなったが、12月には国立演芸場寄席(すみだトリフォニーホール小ホール)で披露興行が開催される(14日から18日までの5日間)。さらに今後1年ほどは、各地の落語会で披露口上が行われる。
一花師匠の落語の旅は続く。






