「新書 世界現代史」世界の警察・アメリカ亡き後、プーチンと習近平を駆り立てる「レコンキスタ」とは何か
「祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり。沙羅双樹の花の色、盛者必衰の理をあらはす。驕れる人も久しからず、ただ春の夜の夢のごとし。たけき者もつひにはほろびぬ、ひとへに風の前の塵に同じ」
平家物語の冒頭から始まるのは川北省吾著「新書 世界現代史 なぜ『力こそ正義』はよみがえったのか」(講談社現代新書)。
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昭和生まれの筆者は、子どものころ、ベルリンの壁崩壊も、ソ連の解体も、おぼろげながら、テレビで見た。アメリカの政治学者・フランシス・フクヤマの「歴史の終わり」は、冷戦の終結で、アメリカが掲げる自由と民主主義が勝利し、イデオロギーの歴史は終えんを迎えると告げていた。
誰もが、世界の警察、アメリカ一強の国際秩序が続くものだと信じていた。もちろん、筆者もその一人だった。
それが今やどうだ。この国際状況を誰が当時予想できただろうか。
2013年9月10日、第44代大統領、バラク・オバマは、ある演説をした。当時、アラブの春という中東民主化運動が繰り広げられていた。特にシリアは激戦地で、アサド政権の化学兵器使用に対する世界的な批判が巻き起こっていた。オバマはそれに対し触れたあと、こう述べた。
「アメリカは世界の警察官ではありません。われわれの力で全ての悪を正すことは不可能なのです」
アメリカの敗北宣言だった。アメリカは、イラクやアフガニスタンに戦争を仕掛け、いずれも失敗していた。ベトナム戦争の敗北から何も学んでいなかった。
そんな状況に、機を見るに敏と動き出したのが、ロシアのプーチンと中国の習近平である。
本書は、アメリカの黄昏(たそがれ)とともに強権国家の台頭と、そのリーダーの動機を、レコンキスタ(失地回復)というキーワードで読みとき、なぜ、力こそ正義が復活したのかを解説する力作だ。
ロシアは、ソ連崩壊の直前から、東欧の同盟国から次々に見放され、NATO包囲網によって締め出されていく。また中国は「百年国恥」と呼ばれる、アヘン戦争に始まる近代の部分的植民地時代によって、古代から世界の覇権国だった中華の歴史において、例外的な屈辱時代を過ごす。彼らに共通しているのは圧倒的な被害者意識である。
北野武の名作映画「キッズ・リターン」で例えるならプーチンはマサルで習近平はシンジである。ラストの名シーン。
「俺たちもう終わっちゃったのかな」
「バカヤロー、まだ始まっちゃいねぇよ!」
世界はメトロノームのシンクロ現象のように同期していく
そうして彼らの反撃が始まったのである。オバマの演説からまもなく、2014年、ロシアはクリミアを併合した。そしてふたりが手を取り合うときがやってくる。
2022年2月4日、北京冬季オリンピック開幕式。多くの西側諸国は、新疆ウイグル自治区における中国の人権侵害を理由に外交ボイコットを決行した。しかし、プーチンは出席した。この日発表された中ロ首脳声明では無期限の友好が表明され、その20日後、ロシアはウクライナに侵攻する。
この流れと同時進行していたのが、グローバル化だ。それは、アメリカに超格差社会をもたらした。この流れに乗って、世界各地で右派ポピュリズムが台頭した。
ドイツのAfD(ドイツのための選択肢)や、フランスのRN(国民連合)、日本では、参政党などがこれに当たるだろう。伝統主義的で、常識や家族を重んじ、woke(人種や性別、性的指向における少数派を擁護し、社会の多様性に熱心な人々)を極端に嫌う。
プーチンなどが反リベラルで有名で、「リベラルな考えは時代遅れ」「(道徳的)退廃」と述べている。習近平率いる中国は、ウイグルを同化させている時点で、多様性を求めるほうが困難である。
この、レコンキスタと右派ポピュリズム、二つには親和性がある。
著者は、この世界が同調していく様をメトロノームに例える。メトロノームは、バラバラのタイミングで動かしはじめても、次第にテンポとタイミングがそろっていく。これをシンクロナイゼーションと呼ぶ。世界はメトロノームのようであると。
かつての超大国アメリカや、我々の国、日本もこのメトロノームに飲み込まれていく。秩序なき世界で、我々一人一人はどう行動すればいいのか。本書は、そのヒントにあふれている。
残念ながらその解はないのかもしれない。ただし、一人一人がメトロノームに飲み込まれることなく、炭鉱のカナリアになることによって防げることはあるかもしれない。冒頭に書いたように、筆者には慧眼(けいがん)がないので、その予想は外れるかもしれないが。
文/神田桂一 内外タイムス






