61億円超の金銭被害 プルデンシャル生命の営業手法「プルゴリ」が引き起こした成果主義の落とし穴
プルデンシャル生命保険が10月8日に調査委員会の報告書を公表した。保険業法などで厳しく制限されているはずだった「金銭授受」の総額は、今回の発表で61億円を超えた。同社は社員と元社員157人に対して懲戒解雇などの処分を下す異例の事態に発展している。
金融庁は2026年10月13日から2027年1月31日まで、新規の保険販売を停止する業務停止命令を出した。金融庁は処分の理由の一つに、保険業法に抵触する保険募集行為があったことを挙げ、「金融機関社員に求められる高い倫理観やコンプライアンス意識を有さず、金銭に執着の強い者が混入した」と厳しく批判した。また、営業社員(ライフプランナー)の管理体制にも重大な欠陥があると指摘している。
プルデンシャルで不正が横行した理由は、「プルゴリ」とも呼ばれる強引な営業方法を用いた、過度な成果主義と上層部の監督不足が重なったためだろう。
プルデンシャル生命で不祥事相次ぐ 31億円問題に続き新たな金銭トラブル、いわくつきの本社ビルにも注目
営業社員は基本的に完全歩合制で、入社から3年目以降は固定給がない。調査報告書によると、2025年度には年間報酬が3000万円を超えるライフプランナーが約400人おり、中には報酬が3億円を超える社員もいたという。
さらに、管理職の報酬も営業社員の成績に連動。管理職が売上至上主義の恩恵を受ける仕組みなので、成績の良い営業社員には注意しにくい雰囲気があったとの証言が、元管理職から出ている。
具体的な事例の一つに、営業社員が顧客を別の顧客のネットワークビジネスに紹介し、登録料を負担したケースがある。紹介の見返りとして、保険への新たな加入、新規顧客の紹介を期待していたという。成績のために、ライフプランナーがあの手この手で話を持ち込んでいた様子がわかる。
成績優秀な社員は「エグゼクティブ・ライフプランナー(エグゼ)」と呼ばれ、社内で別格の扱いを受けていた。管理職もエグゼには口出しできないという空気が醸成されていたようだ。
2002年に亡くなった創業者の「抑止策」
なぜこのような組織風土が出来上がってしまったのか。その背景を考えるには、創業時の営業モデルと理念に目を向ける必要がある。
プルデンシャルの日本法人は1987年創業だ。創業者の坂口陽史氏は、確率や統計を用いて保険や年金のリスクを評価する保険数理の専門家、アクチュアリーだった。坂口氏が築いたのは、ライフプランナーが顧客の状況やニーズを分析し、一人ひとりに合った保険を提案する営業モデルである。
高度経済成長期の日本は、大手生命保険会社の「生保レディ」が活躍していた。その営業手法の一部は、義理・人情・プレゼントの頭文字を取って「GNP営業」と呼ばれた。
このGNP営業を一新し、コンサルティング型にかじを切ったのがプルデンシャルであり、1998年には保有契約高が10兆円を超えるまでに成長した。コンサル型の営業モデルを支えたのは、成果に連動する報酬制度だった。
専門性を発揮して成果を上げれば、それに見合った報酬を得られる。営業社員の意欲と能力を引き出す狙いがあったが、創業者が重視していたのは業績だけではなかった。
プルデンシャルは1992年に「コアバリュー」を導入している。かつて坂口氏は企業の在り方について、「企業が立派な存在として認められるためには、最高の業績を残すだけでは十分とはいえません。人間に人格が問われるように、企業も社会が高く評価してくれるような社風を持たなければならないのです」と語っている。
コアバリューの一つに「信頼に値すること」が置かれている。行き過ぎた成果主義の弊害を見抜いていたかのような発言である。
坂口氏は2002年、58歳で亡くなった。会社はその後も成長を続けたが、理念を実際の行動や管理に結び付ける仕組みは、十分に機能していたのだろうか。
金融庁は、不祥事を防ぐための改善を図る機会が何度もあったが、歴代の経営陣は営業推進を優先し、既存のビジネスモデルの維持に固執したと指摘している。
掲げられた理念は、報酬、採用、表彰、監督の仕組みに反映できていただろうか。プルデンシャル生命の問題は、成果主義の利点と、それを適切に機能させるための統制の必要性を示している。
文/不破聡 内外タイムス






