パキスタンで断続的に続く中国権益への攻撃 なぜバルチスタン解放軍は攻撃を続けるのか
パキスタン南西部のバルチスタン州では、分離独立を掲げる武装組織「バルチスタン解放軍(BLA)」による攻撃が続いている。BLAはパキスタン政府だけではなく、中国人や中国関連施設も標的としており、中国にとってパキスタンは友好国でありながら、自国民や投資案件の安全確保が大きな課題となっている。
なぜBLAは中国を攻撃するのか。背景を理解するには、まずバルチスタン州が抱える問題を見る必要がある。同州はパキスタン最大の面積を持ち、天然ガスや鉱物など豊富な資源を有する一方、人口規模は国内で最も小さく、経済・社会開発が十分に進んでいない。
BLAなどのバルチ民族主義勢力は、中央政府が地域の資源を利用する一方、地元住民が十分な利益を得ていないと主張してきた。さらに、治安機関による人権侵害や失踪事件などへの不満も、反政府感情を強める要因となっている。
テロと一般犯罪は何が違うのか 「何のためにしたのか」を見ることの重要性
ここで重要になるのが、中国とパキスタンが進めてきた「中国・パキスタン経済回廊(CPEC)」である。CPECは中国西部からパキスタンを経由してアラビア海に至るインフラ・エネルギー・物流などの大型開発構想で、その重要拠点の一つがバルチスタン州のグワダル港だ。
BLAにとってCPECは単なる経済プロジェクトではない。中国とパキスタンの中央政府が、バルチスタンの資源や土地を地元住民の十分な同意なしに利用する象徴と受け止められている。つまり、中国企業や中国人労働者を攻撃することで、パキスタン政府だけでなく、中国に対しても「この地域での経済活動を続ける限り安全ではない」というメッセージを送っているのである。
実際、BLAはグワダル周辺の施設や中国人技術者を狙った攻撃を繰り返してきた。2024年10月にはカラチで中国人を乗せた車列が自爆攻撃を受け、中国人2人が死亡した。また2025年3月には、BLAが旅客列車「ジャファル・エクスプレス」を襲撃し、多数の乗客を人質にする事件も発生した。攻撃は従来の小規模な襲撃だけでなく、複数の部隊を組み合わせた大規模で複雑な作戦へと変化している。
BLA最大の目的はバルチスタンからの分離独立
もっとも、BLAを単純に「反中国組織」と理解するのは正確ではない。最大の目的は中国との対立そのものではなく、バルチスタンからの分離独立である。中国はパキスタン中央政府と結びつき、地域の資源開発やインフラ整備を進めているため、その中国が攻撃対象になっているという構図だ。BLAはイスラム過激派組織とも異なり、民族主義・分離独立を掲げる武装組織である。
一方、攻撃が続くことで、パキスタン政府は中国人やCPEC関連施設の警備を強化し、さらに軍事的対応を強めている。これは短期的には安全確保につながる一方、治安機関の存在感を高め、地元住民の反発を強めるという循環を生む可能性もある。
したがって、中国権益への攻撃を抑えるには、警備強化だけでは十分ではない。バルチスタン住民が資源開発から利益を得られる仕組み、政治参加、人権問題への対応など、BLAが利用している地域社会の不満をどう縮小するかが重要になる。中国にとっても、投資額を増やすだけではなく、現地社会との関係をどう構築するかが、CPECを長期的に維持する上で大きな課題となっている。
文/和田大樹 内外タイムス






