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あえて飲まない人々「ソバーキュリアン」の登場で飲食店のお酒で儲けるビジネスモデルに危機感 

「体感ですけど、お客さんの総数は減っています」

そう語るのは、渋谷で「bar bossa(バール・ボッサ)」を経営する林伸次さんだ 。

2023年、WHO(世界保健機関)が「健康に影響を与えない安全な飲酒量は存在しない」という衝撃的な声明を発表した。

それに呼応するかのように、お酒は飲めるのに「あえて飲まない」選択をする「ソバーキュリアン」と呼ばれる人たちが現れ始めた。

彼らがお酒を飲まない理由は、健康への配慮、酔っている時間がもったいないというタイパの意識、あるいは高い自己管理能力や知性の証明など様々だ。根底にあるのは、「お酒を飲んでも良いことがないのに、なぜわざわざ飲むのか」という徹底した合理主義である。

「以前は、月にソフトドリンクを頼むお客様は1、2名程度でしたが、今は1割ほどに増えています。居酒屋やファミレスなら、もっと割合が高いのではないでしょうか」(林さん)

お酒を飲まない風潮は、若い世代を中心に確実に広がっている。あるZ世代の美大生は、大学の新入生歓迎コンパでお酒がいっさい出なかったと話す。

「スイーツパーティーでした。お酒を出したら教授が怒られるみたいで」

このように、お酒を経験しないまま卒業し、社会人になっても飲む習慣がないまま年齢を重ねていく若者は多い。別の社会人2年目の若者は

「お酒を飲んで醜態をさらしている人はダサいと感じる。お酒に時間を取られるのもコスパが悪い」と切り捨てる。

このソバーキュリアンの台頭によって、大きな打撃を受けているのが飲食店だ。とりわけ居酒屋など、お酒と料理をセットで提供する業態への影響は深刻だ。もっとも、バー経営者である林さんの店は、少し事情が異なるようだ。

「うちはお酒、特にワインがメーンです。ワインをたしなむにはある種の教養や手間が必要なため、海外経験があってワイン文化になじみがある方、ナチュラルワインやクラフトビールが好きな方など、文化系とも言えるこだわりを持ったお客様が中心です。

そのため、そこまで大打撃というわけではありません。しかし、一般的な飲食店というのは、基本的にはチューハイやハイボールといった『原価が低く、簡単に作れるドリンク』で利益を上げているのです」

ドリンクを作るのは職人技がいらず誰でもできる

実のところ、お酒やソフトドリンクの原価率は極めて低い。数パーセントという世界である。そのうえ、職人技を必要とせず誰でも作ることができるため、経営効率が非常に良い。一方で、料理は技術のある料理人を雇う必要があり、人件費も材料費も高くつく。

だからこそ、多くの飲食店は「ドリンクの利益」に依存せざるを得ない構造になっている。

「私を含め、飲食関係者はみんな『料理の値段を上げるべきだ』と考えています。しかし、日本は長引くデフレによって『安いことが正義』『安く提供することこそが企業努力』という意識が根強い。だから、どうしてもドリンクの利益に頼ってしまうのです」(林さん)

そうした飲食店側の台所事情に、「お酒を飲まない風潮」が直撃している。つまり、「お酒でもうける」という従来のビジネスモデルそのものが崩壊しつつあるのだ。ひいてはお酒を飲まないから外食を控えるという機会損失にもつながりかねない。

杉並区で居酒屋を営むオーナーも、次のように苦境を吐露する。

「前年と比べて1割ほどお客様が減りました。周囲からも『お酒をやめた』という声をよく耳にします。お酒を飲まない方がお店に来てくださるのは大歓迎なのですが、お水ばかりを頼まれると、地味にキツイのが本音です」

この危機を乗り越えるため、業界では新たな動きも始まっている。林さんはあるトレンドを指摘する。

「今、『ノンアルペアリング』という提案が流行しています。ノンアルコールドリンクと料理を掛け合わせることで、意外な味の相乗効果を楽しむという趣旨です。例えば、ブルーチーズを使った料理に、あえて甘いお茶を合わせる。これにより、ドリンクと一緒に料理も楽しんでもらう戦略です。今のところ、お酒を飲まない風潮に対する、飲食店側の一番の落としどころではないかと思っています」

冒頭で触れた「お酒を飲んでも何も良いことがないのに、なぜわざわざ飲むのか」という徹底した合理主義。これは、かつての「タバコ離れ」の価値観にも通じるものがある。お酒もまた、独特の「匂い」や健康への影響、周囲へのマナーの観点から、今後はタバコと同じように忌避される存在になっていく可能性がある。

将来、お酒が現在のタバコと同じように、肩身の狭い扱いを受ける日が来るかもしれない。

文/神田桂一 内外タイムス

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