女性初のG1制覇、今村聖奈騎手と父・康成氏Wインタビュー(第2回)苦しみも悲しみも喜びも分かち合う“同期のきずな”
競馬界のニューヒロイン・今村聖奈騎手(22)。2026年のオークスをジュウリョクピエロで制し、女性騎手として初のG1制覇を果たした。
笑顔でハキハキと答える姿はスターの資質。人気も注目度もうなぎのぼりの今村騎手はどんな少女だったのか。
父・康成調教助手(47)との内外タイムス父娘ダブルインタビュー第2回。馬に囲まれて育った幼少期からこれまでの半生を振り返る。
乗馬苑で身に付いたコミュニケーション能力と社会性
幼い頃の聖奈騎手について康成氏に尋ねると、予想通りの答えが返ってきた。
父「明るくて、ものすごく活発で、よく遊んでいる子でしたね」
インタビューの受け答えからも幼少期のイメージが沸く。優しい父親の下でのびのびと育ったのだろう。父親の職業柄、幼い頃から男社会の競馬界関係者と接する機会が多く、人懐っこい聖奈の性格も自然と育まれた。
父「乗馬苑に行き出してから、年上の方、目上の方ともコミュニケーションを取れるようになりましたし、社会性が身についたのでよかったのかなと思います」
乗馬苑とは栗東トレーニングセンターの敷地内にある施設で、聖奈は馬に親しみ、周囲の大人たちと接して人格形成に多大な影響を受けた。ただ、元々は騎手を目指していたわけではなかったという。
聖奈「周りの友だちが競馬関係者の子が多くて、そういった子たちのきっかけで馬に乗り始めるようになったんですけど、最初はジョッキーを目指してませんでした。馬が好きなので、馬のお世話をしたいと思ってました。馬に乗るのを上手になりたいな、馬のこと知りたいなと思って乗ってたんです」
きっかけは小学6年生のころ、春に赴任してきた乗馬の先生の言葉だった。
聖奈「その先生がすごく面倒見がよくて、将来の話をした時が、自分の人生について考える一番のきっかけになったなと思います。乗馬の選手になるよりジョッキーを目指して、みんなと一緒に頑張ってみようかなと思いました」

とはいえ、男社会の競馬界で女性が騎手になるのが大変であることは想像に難くない。特に体力、筋力では劣るため、トレーニングで性別の壁を痛感することも少なくなかった。
しかし、だからと言ってへこたれるような聖奈ではない。持ち前の負けん気と人懐っこさで男子と一緒に汗を流し、騎手への道を歩んだ。
聖奈「周りの先輩が優しかったので、ランニングで置いていかれそうになっても一緒にゴールまで頑張ってくれたり、筋力的に衰えている部分があっても、自分ができるまで根気強く待ってくれたり、その時は気付かなかったけど今思うと彼らの配慮というか、優しさだったのかなと思います。圧倒的に女性が少ないので、かわいがってくれたなと思います。そこで救われた部分はたくさんあります」
女性であることが、時としてハンデになることもあったに違いないが、決してマイナスには捉えない。常に前向きで愛されるキャラクターだからこそ、周囲は助けたくなるのだろう。辞めたいと思ったことはないのか尋ねるとこう答えた。
聖奈「この場から逃げても多分ほかの何をしても続かないなと思って、逆に何をしたいかも分からないし、辞めちゃったら多分これしとけばよかったって後悔が残ると思ったんで、踏ん張り続けたのはあります」
ライバルであり親友でもある幼馴染の死
聖奈の気持ちが折れることなくプロ騎手としてデビューできたのは仲間の存在も大きい。そのうちの一人が角田大河だ。
同い年で同期としてJRAデビューを果たしたが、2024年8月に死去した。
聖奈「彼は幼馴染で、あともう一人、大久保友雅もいるんですけど、小中学校からすごく仲良くて切磋琢磨し合える仲間だったし、私の良いところも悪いところも分かってくれてるし、けんかもたくさんしたけど、なんだかんだ最後は味方でいてくれるような心強い存在でした。(角田の死去は)周りの人ともっと向き合わないといけないのかなって気付かされた出来事だったし、身近にいる人たちが普段どんなことを考えてたり、どんな辛い思いをしてるか気付けてなかったこともあっただろうし…。自分の大切な人をこれ以上なくさないように、自分自身も頼れるところは頼って、人に弱いところを見せてもいいのかなと思いました」
そこには幼少期から切磋琢磨してきたライバルであり、親友でもあるジョッキー同士ならではの関係性がある。強いきずなで結ばれていても、同じ職業で勝敗を競う者として弱い部分を見せたくないのはアスリートのさがと言えるだろう。

同期の佐々木大輔が熱弁した“もどかしさ”
また、誕生日が4日しか違わない同期の佐々木大輔(22)から受ける刺激も大きい。1年目に51勝したが、その後25勝、6勝、22勝と勝利数を減らした聖奈に対し、佐々木は1年目こそ9勝にとどまったものの2年目から68勝、77勝、81勝と右肩上がりに成績を上げた。
聖奈「彼は競馬に対して本当にストイックで、競馬学校の時からすごく競馬の深い話ができる同期だったので、今でもしゃべると馬の話ばっかして、すごく楽しいです。彼が1年目に悔しい思いしていたのが、自分の2年目、3年目、4年目に当てはまるのかなと思うし、見えない努力をしているからこそあそこに行けるわけであって、すごく刺激を受けてます。同期の中で先にG1を勝つのは彼だと思ってました」
5月24日、オークスは東京競馬場の第11レースだったが、すでにその日の騎乗予定を終えた佐々木は居残って聖奈の晴れ姿を見届けたという。
聖奈「調教の動きを見てチャンスがあるというのを感じてて、11レース前に残ってみとくわーと言ってたんです。勝ったらすぐお迎えに来てくれたし、感じたことのない感情になったと言ってましたね。この前、一緒にご飯行った時に、“手がしびれてた、何をたたいたかも覚えてないけど、応援してゴールした瞬間すごい悔しい気持ちにもなったし、もどかしかった”と熱弁されました」
誰よりも応援したい一方で、スポットライトを浴びるまぶしい姿を見ると嫉妬や悔しさを覚えるのは同じ職業ゆえだろう。そんな熱い仲間たちと刺激し合いながら、聖奈は女性として初めてG1ジョッキーになった。今後はどんな騎手人生を歩むのだろうか。結婚を考える時もいずれ来るだろう。第3回では、乙女の胸の内に迫る。
(第3回につづく)

《プロフィール》
今村聖奈(いまむら・せいな)2003年11月28日生まれ。2022年に寺島良厩舎からデビューし、17戦目で初勝利。7月のCBC賞をテイエムスパーダで重賞初騎乗初制覇するなど、ルーキーイヤーに51勝を挙げ、最多勝利新人騎手賞を受賞。2025年に女性騎手として史上3人目のJRA通算100勝を最速で達成した。
今村康成(いまむら・やすなり)1978年10月19日生まれ。1997年に騎手デビューし、翌1998年に136戦目で初勝利。2001年の中山大障害でユウフヨウホウに騎乗し、唯一の重賞となるJ・G1初勝利を挙げる。平地5勝、障害40勝の成績を残して2012年に引退し、現在は飯田祐史厩舎で調教助手を務めている。


