麻原彰晃の三女・松本麗華さんインタビュー(後編)「一歩間違えれば、誰でも『加害者家族』になり得る」――憲法が守られない現実と想像力の欠如
死刑を執行された父親、「お兄さん」と呼んだ信者たち、そして被害者とその遺族――。
複雑な感情を抱えながら、心理カウンセラーとして働く松本さんはなぜ「憎しみではなく支え合いを」と訴えるのか。
愛する家族ゆえに差別されることとなったすべての人に贈る。
麻原彰晃の三女・松本麗華さんインタビュー(前編)学ぶ権利を奪われ、入国規制、銀行口座は作れず…その人生とはから続く
実名と顔を公表し書籍を出版
松本さんは生い立ちを伏せて社会で生きて行こうとしたが、それでも人権侵害は止まらなかった。未成年ではなくなった以上、いつ顔や名前をさらされるかわからない。実際に実名を報じるマスメディアもあり、松本さんは心身ともに消耗していたという。
父親の死刑執行が近いという情報が入り、松本さんは本の出版を決意。2015年、講談社から初めての著書『止まった時計』を上梓。表紙には、自らの実名と顔写真を載せた。
「本を書いていた頃は、過去や現実と向き合うのが本当に苦しくて、何度も心が折れそうになりました。でも出版後、私をありのままの松本麗華として受け入れて下さる方が増えたので、あきらめずに本を書いてよかったと思えたんです。
一方で、SNSやAmazonレビューには、この本の売り上げをどうするのか、被害者への賠償に充てるのか、本を書いて金儲けなんかして事件をどう考えているのか、といった趣旨の書き込みが相次ぎました。中には、この本の売り上げがテロに使われるから買わない方がいい、という内容の中傷までありました。
実際には、アルバイトのようなものであっても、私たち『加害者家族』が生活するためにお金を稼げば、同じようなことを言われ続けるんだと思います。『加害者』と『加害者家族』を同一視する人たちにとって、『加害者家族』は、社会に全てを捧げるべきで、命まで捧げたときにやっと、少し気の毒に思ってもらえるのかなと感じます」

誹謗中傷とSNS社会について
事件から約30年。社会は不寛容さを増していると言われるが、松本さんは誹謗中傷が減らない原因にSNSの発達があるのではないかという。
「YouTubeやXなど、匿名で簡単に他人を攻撃できるSNSの仕組みそのものに問題があると思います。誹謗中傷など、違法なことをさせないための環境を整えた方がいいのではないでしょうか。実際、匿名で、家族みんな死刑、テロリストの血はすべて遮断すべきだ、ロープぐらい買ってきてあげるよといった書き込もされています。現状は、SNSの会社に対応を求めても、何もしてもらえない。もし責任を問われるなら、こんなことは言えないと思います」
本を出版し、顔と実名を公表して以降、あまり緊張せず人と自然に接することができるようになってきたと話す松本さん。今は、傷ついた人々に寄り添う心理カウンセラーとなって、生計を立てている。
死刑を執行されてしまった、かつて自分をかわいがってくれた父親や、「お兄さん」と読んでいた信者たち――今彼らに対して、どのような葛藤を抱いているのだろうか。
「あのような事件は、絶対に起こしてはいけない。被害者の方やそのご家族のことを思うと、言葉になりません。一方で、『お兄さん』が拘置所の面会室で見せた、悔悟の念に苦しみ続ける姿を思い出すと……。私は、憎しみよりも、事件で傷ついた人たちをどう支え、同じ悲劇をどう防いでいくのかを考えることのほうが、大切なのではないかと感じています」
被害者家族と向き合ってわかったこと
被害者家族と向き合うために被害者遺族の集う集会に参加した。
「幼い頃から『被害者と向き合え』とずっと言われ続けて、その考えが内面化していたのかもしれません。毎年、被害者家族の集会に参加させていただこうか、自分が参加してもいいのだろうかと悩み続けていました。
そんな中で、2018年に友人の 村本大輔 さんや 堀潤 さんが背中を押して下さって、参加させていただくことにしました。
実際に被害者のご遺族の姿を目の当たりにしたときの衝撃は、本当に大きかったです。事件が、『この方』の家族を奪った。そう思った瞬間、自分の中で何かが崩れてしまいました。とても受け止めきれるものではなかった。
私は、この集会に参加してから、本格的に精神の調子を崩してしまいました。死ぬことばかり考えるようになってしまったんです。
だから今は、『加害者家族の子ども』、に伝えたいんです。『事件と向き合え』と言われても、無理に背負わなくていい。あなたが起こした事件ではないのだから、自分の人生を生きてほしい――そう声をかけてあげたいと思っています」

「加害者家族」と被害者家族を分断させているもの
また、「加害者家族」と被害者の分断を煽る風潮があるという。
「私たち『加害者家族』は、被害者のことをどう思っているのか、事件のことをどう思っているのかと、事件や事件の結果を繰り返し突きつけられます。事件当時子どもでもそれは変わりません。
被害者と『加害者家族』を対立させようとする方もいます。被害者への配慮からか、『加害者家族』を遠ざける弁護士さんもいらっしゃいます。でも私は、事件に巻き込まれた被害者側も『加害者』側も、力を合わせてどうすれば被害から回復できるかを考えることが必要だと思っています。
昨年6月に公開された長塚洋監督の『それでも私は Though I’m His Daughter』——私の6年間を追ったドキュメンタリー映画の上映の際、地下鉄サリン事件の被害者の方が来てくださいました。こういうかたちで出会えたことに意味を感じていますと仰ってくださいました。Xでは、地下鉄サリン事件の後遺症に苦しむ方のご家族からもご連絡をいただきました。その方は、経済的に余裕がない中、サリン中毒に対処する方法がなく民間療法に頼らざるを得ない、誰も何もしてくれないとおっしゃっていました。行政がきちんと手を差し伸べるシステムが必要だと思います」

もし自分が「加害者家族」になったらという想像力を
どうしたら「加害者家族」が生きやすい社会になるのだろうか。解決策はあるのだろうか。

「みなさん、『加害者家族』になる想像はほとんどされません。『加害者家族』になることは、自分ではどうしようもありません。私も、『加害者家族』になるとは夢にも思っていませんでした。どんな事件でも子どもに罪はないのですが、『加害者家族』になると人生は簡単に壊れます。
それでも、自分とは別世界のことと思い、『加害者』や『加害者家族』を断罪してくる方たちがいます。もしかしたら、自分とは無関係なことと考えることで、心理的な安全を確保しているのかもしれません。
仕事を失い、家族はばらばらになり、社会から孤立するかもしれない。しかも、それは人ごとではありません。大切なのは、自分が加害者側になるかもしれない、事件に巻き込まれるかもしれないと、想像力を持つことではないでしょうか。誰もがそれを自分のこととして想像できたなら、状況は変わるのではないかと思っています。私は(加害者家族として)生きてきた経験を同じように苦しんでいる方やこれから困難に直面するかもしれない方の力になれたら嬉しいです」
現在は一般社団法人「共にいきる」の理事として、主に「加害者家族」のサポートに取り組んでいる。「加害者家族」や、友人が「加害者家族」になってしまった場合などは気軽に連絡をしてほしいと語る。

日本国憲法14条には「すべて国民は、法の下に平等であって、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない」と明記されている。松本さんの現実は、この条文が本当に守られているのかを、私たちに問いかけている。
《プロフィール》
松本麗華(まつもと・りか)1983年4月生まれ。12歳の時に父親が逮捕され、16歳でオウム真理教を離れる。文教大学臨床心理学科卒。こころの暖和室あかつきの心理カウンセラー。日本産業カウンセラー協会所属。「加害者家族」などを支援する一般社団法人共にいきる理事。共著・著書『止まった時計』(講談社)『被害者家族と加害者家族』(岩波ブックレット)『加害者の家族として生きて』(創出版)。X(https://x.com/RikaMatsumoto7)やInstagram(https://www.instagram.com/rikareikamatsumoto/)、ブログ(http://wanttobefree.org/)も開設している。


