郵政民営化は何だったのか 国が650億円で不採算の郵便局を救済する郵政民営化関連法改正案成立へ
16日に郵政民営化関連法の改正案が衆院本会議において賛成多数で可決された。今国会で成立する見通しだ。改正案の成立で、国が郵便局に対して年間650億円程度の支援をすることになる。国が保有する日本郵政からの配当金などが財源だ。
つまり、日本郵政から国が受け取れるはずだった配当金などを、日本郵政の100%子会社である日本郵便に交付金として引き渡すことになる。民間企業らしからぬ不可思議な内容だ。
公的支援の目的はユニバーサルサービスの確保である。郵政民営化法では、郵便局に対して「あまねく全国において公平に利用できるようにする責務を有する」と定められている。過疎化が進んでいる地域や離島などの遠隔地でも、郵便や銀行、保険などの業務が滞りなく行われることが求められているのだ。原則として、いずれの市町村にも1つ以上の郵便局を設けなければならない決まりもある。
小泉純一郎内閣の郵政民営化の狙いには、競争原理を働かせることで効率的な経営手法を磨き、サービスの向上を図ることがあった。しかし、ユニバーサルサービスという大前提があれば効率化にも限界がある。そして、今回の改正案で支援金による郵便局の維持という方向性を打ち出したため、より民営化からは遠ざかった印象だ。
郵便事業については、根本的な議論が必要な段階にきている。2026年3月期の郵便物の取扱数は前期と比較して5%減少し、郵便・物流事業は118億円もの赤字を出している。2024年10月にはがきなどの値上げを行ったが、郵便物の取扱数量の減少ペースが速く、その効果は限定的だ。
郵便局は一時閉鎖中のものも含め、全国に2万4000ある。取扱数量の縮小や人口減少が鮮明になる中で、ユニバーサルサービスの維持の是非を議論しなければならないはずだ。しかし、支援金というその場しのぎの案で議論に終止符が打たれた。
ドイツでは8000人もの人員削減策を断行
本質的な議論に発展しづらい要因に、政治的な配慮がありそうだ。全国各地の郵便局長で構成される全国郵便局長会(全特)は自民党の有力な支持団体だ。2万人規模の会員ネットワークを有しており、熱心に政治活動をすることで知られている。特に自民党の総裁選挙で強い影響力を持つとされているため、団体の意向に反するような方針は打ち出しづらい。
そして、郵便局員や日本郵政の従業員で組織される日本郵政グループ労働組合(JP労組)は立憲民主党の支持団体である。小沢雅仁参議院議員ら、組織内議員を国政に送り出している。
当然、全特もJP労組もユニバーサルサービスの維持と向上を最重要視している。与野党ともに意見をしづらいのだ。
日本郵政の根岸一行社長は2026年1月20日の記者会見で、郵便の集配拠点の統廃合について発言し、地方を中心に3年間で500か所程度の拠点を削減できるとの考えを示した。拠点の集約でコスト削減につなげるというが、人員削減はせずにあくまで配置転換に留まる内容だ。
根岸氏は郵政省(現総務省)出身。人員削減をしないとの配慮に元官僚らしい慎重さもうかがえる。しかし、人員を整理せずに郵便事業を黒字化できるほどのコスト削減が期待できるのかについては疑問の余地がありそうだ。
デンマークは2025年に郵便配達の廃止を決定した。ドイツの郵便大手は8000人規模の人員削減策を断行している。一方でユニバーサルサービスのルールの見直しや、デジタル化を促進して住民に不便が出ない方法を模索している。本来であれば、日本も効率化の道を進まなければならないのではないか。
文/不破聡 内外タイムス


