トランプ政権のイラン攻撃と沖縄 川上高司 前内閣官房参与

トランプ政権のイラン攻撃と沖縄 川上高司 前内閣官房参与
米国とイスラエルの共同作戦によりイランのハメイニ師が2026年2月暗殺された。
トランプ大統領がイラン攻撃を決断した背景には、自身の暗殺計画に対する報復という個人的動機に加え、ホワイトハウス内の力学と国内政治が強く働いている。具体的には、政財界を巻き込み再燃する「エプスタイン問題」から世論の目を逸らすための、古典的な陽動作戦(Wag the Dog)としての側面である。さらに、11月の大統領選を見据え、「強いアメリカ」を体現し歴史的偉業を演出することで、岩盤支持層であるMAGA派の熱狂を維持するという高度な政治的計算が窺える。
作戦は緻密なインテリジェンスと最新技術の融合である。CIAはヒューミントと新型ステルス無人機(RQ―180等)を駆使してハメイニ師の居場所をピンポイントで特定。事前に潜伏したJSOC等の特殊部隊が目標指示を行った。実際の攻撃は、イスラエル空軍のF-35が地中貫通爆弾で「頭(最高指導部)」を落とし、米軍がイランの防空網や報復戦力を叩く「手足縛り」を担うという、前例のない役割分担による共同作戦であった。斬首作戦の実態は米・イスラエル共同戦線であった。
指導者を失ったイランは各国の米軍基地等へ猛反撃に出た。最大の懸念は、非対称戦術によるホルムズ海峡の封鎖である。原油の約95%を中東に依存する日本にとって、海峡封鎖は国家存亡の危機だ。原油価格の異常な高騰、LNG供給停止による計画停電の現実味、そして強烈なコストプッシュ・インフレが同時発生し、日本経済は「静かなる壊滅」に直面する。
日本にとっての最大の懸念はイランとの全面衝突により、米国のイラン戦争が長期化しそして激化した場合である。その場合、米軍は日本周辺から空母打撃群を引き抜き、中東へ集中展開する可能性がある。そうなった場合、東アジアには米軍の「力の真空」が生じる。
それを埋めるのが、在沖米軍である。空母不在の事態を想定し、在沖米海兵隊はすでに第12海兵沿岸連隊(12th MLR)を中心に、対艦ミサイルシステム(NMESIS)や高機動ロケット砲システム(HIMARS)の配備を進めてきた。さらに、有事に備えた武器弾薬の「事前集積」が沖縄本島および南西諸島で急速に進められている。米軍は、大型艦船に頼らずとも、島嶼部に分散配置された長射程ミサイル網と事前集積された弾薬庫によって、中国に対する抑止線(第一列島線)を維持する戦略へとシフトしている。
さらに、陸上自衛隊は、12式地対艦誘導弾のスタンド・オフ・ミサイルやトマホーク巡航ミサイルの南西諸島への配備を進めており、米海兵隊のNMESISと重層的な「接近阻止・領域拒否(A2/AD)」の網を構築している。米空母の中東展開は、日米同盟の対中抑止力において「質的転換」を強制する。これまでの『圧倒的な米海軍の打撃力に依存する抑止』から、『南西諸島に分散・要塞化された日米のミサイル網と、自衛隊の海空戦力による持久・拒否型の抑止』への完全なパラダイムシフトとなる。
しかしながら、中東への米軍の戦力集中は、中国にとって台湾侵攻の千載一遇の好機と映る。中東の危機は台湾海峡と直結しており、世界の安全保障体制は今、歴史的な転換点を迎えている。
そのような中で開催される4月に予定される米中首脳会談ではイラン戦争とならび台湾も議題にあがろう。台湾有事は沖縄有事となりかねない。
米中会談の直前に訪米する高市早苗首相にはトランプ大統領に対し、日米同盟の総意として、台湾への武力行使を断念させるための強烈な抑止的シグナル(牽制)を発するよう最大限の要求をしてもらいたい。


