#20 徳地秀士「ウクライナ戦争への対応から今の米国を考える」

ウクライナ戦争への対応から今の米国を考える 平和・安全保障研究所理事長 徳地秀士

 米国のトランプ政権の動向はますます心配である。2国間同盟により米国と1対1で向き合う日本にとっては、自らの安全保障の根幹に関わる。

 ウクライナ戦争への米国の対応は特に問題である。この悲惨な戦争は3年以上続く。ロシア軍の死者は20万人以上、ウクライナ軍の死者は約4万5千人、双方の戦死傷者は計100万人を超えると言う。早く終わらせるべきは当然である。

 他方、この戦争はロシアによる侵略行為であり、明らかに非はロシア側にある。悪いことをした者が得をすることがあってはならない。そんなことを認めたら世界中で同じことが起きかねない。だから、正義は貫徹されなければならない。単に終わりさえすればよいのではない。

 では、仲介役の米国の態度はどうだろうか。ウクライナを脅して米側の条件を認めさせ、かつ、支援してやってるんだから感謝しろと言う。他方、ロシアの侵略を批判することには反対で、むしろ制裁の緩和に動いている。戦争が終われば露・中・北朝鮮・イランの「枢軸」関係を崩せるから停戦実現こそが重要だという主張もあるようだが、この4国は米国に対抗することに共通の利益を有しているから、停戦実現で楔を打ち込めると考えるのは非現実的だ。また、合従連衡だけを考えていたら国際秩序は成り立たない。

 だから今の米政権は情けない。しかし、露・中・北朝鮮の核と隣り合わせの日本には、米国の核の傘は不可欠である。また、これまで米国主導で築かれてきた民主的でリベラルな国際秩序が維持されてこそ日本の安全と繁栄が可能となる。とすれば、日本自身が国際秩序の維持のために、日米同盟をリードし、かつ、豪州などと共に、米国をこの地域に引き留めておくことこそが重要である。

 米国は、魔女狩りなどの歴史に現われているとおり極端に走ることもあるが、また元に戻るということも歴史が証明している。他国に説教されることは嫌うが、自省して更に強力な国になって国際社会に戻ってくるだろう。また、昨年の世論調査によれば、米国人の過半数は同盟関係の重要性を認識しているし、外交政策の極端な変化は望んでいない。そもそも、大統領選挙での獲得票数をみればトランプ圧勝ではなく僅差である。議会も共和党が完全に牛耳ってはいない。トランプ現象に過度に振り回されず、落ち着いて付き合っていくべきである。米国を今あきらめることは、日本の国益にならない。

とくち・ひでし 1955年生まれ。東京大学法学部卒業、タフツ大学法律外交大学院(フレッチャースクール)卒業(修士)。防衛庁入庁。防衛省運用企画局長、同人事教育局長、同経理装備局長、同防衛政策局長、初代防衛審議官を経て2015年防衛省退職。2021年現職。中曽根平和研究所研究顧問。著書に『専制国家の脅威と日本』(共著2023年、勁草書房)『防衛外交とは何か』(共著2021年 勁草書房)、『気象安全保障:地球温暖化と自由で開かれたインド太平洋』(共著、2021年(東海教育研究所)等がある。

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