#36 川上高司「緊迫する日中関係とトランプ外交の不確実性―高市政権の主体的防衛戦略―」②

緊迫する日中関係とトランプ外交の不確実性―高市政権の主体的防衛戦略― 川上高司(元内閣官房参与)
(戻)NSS2025の「トランプ・コロラリー」は、伝統的な同盟国との関係よりも中国との経済・通商上のディールを優先するトランプ流外交の基盤であり、米軍のアセットを西半球(南北大陸)の安全と安定に振り向け、日本などの同盟国に対しては「自分の地域で主要な責任を引き受ける」ことを要求している。
米国の対外コミットメントの不透明化と、中国の軍事圧力の強化という二重の課題に直面し、高市政権は過去40年間で最大規模の軍備増強に乗り出した。これは、米国によるコミットメントの後退によって生じる日米同盟の「抑止の穴」**を埋めるための、主体的かつ不可避な対応である。
具体的な戦略は、「ミサイル列島」戦略である。琉球列島全域にミサイル砲台、レーダー塔などの戦闘施設を迅速に設置し、防衛費のGDP比2%への引き上げを前倒しで実行している。特に、台湾に最も近い与那国島では、電子戦部隊の増強や中距離地対空ミサイルの配備が進められており、日米のミサイルに標的情報を提供する能動的な「キルチェーン」の実現拠点となる可能性がある。
NSS2025は「米国は単独で第一列島全域を守れない」としつつも、台湾海峡の現状維持は表明しており、日本の「同盟国軍事費の支出と(軍事的)規模の大幅拡大」が求められている。日本の「ミサイル列島」戦略は、米国の内向き志向を背景に高まる台湾有事のリスクに対し、主体的に抑止力を高める一歩となっている。
米国が不確実な時代に入った中で、「自主防衛」と「同盟維持」という二律背反的な課題に直面する日本は、第一に、日米同盟の再構築が必要である。そのために 米国議会と連携し、台湾の安定が米国の国益に直結することをトランプ政権に粘り強く訴える。日本の主体的な防衛努力を同盟の価値を再認識させるテコとする。
第二に、中国リスクの分散。オーストラリアやヨーロッパ諸国との連携を強化し、サプライチェーンや安全保障面での中国リスクを分散する。
第三に、南西諸島への説明が必要となる。 軍備配備について、地元住民に対し一層の透明性を持ち、丁寧な説明責任を果たす。南西諸島が防衛の最先端に置かれる今、日本は歴史的な転換点に立たされており、ここが正念場となる。
かわかみ・たかし 1955年熊本生まれ。元拓殖大学教授。現在、中央大学法学部講師、一般社団法人日本外交政策学会理事長、石破内閣で外交安全保障担当内閣官房参与を兼務。大阪大学国際公共政策博士、ジョージタウン大学留学、米フレッチャースクル研究所研究員、ランド研究所客員研究員を経て、中曽根世界平和研究所研究員、海部俊樹元総理の政策秘書、防衛省防衛研究所主任研究員、北陸大学教授から拓殖大学海外事情研究所所長を経て現職。その間、外務省の国際問題研究所客員研究員、神奈川県庁参与、参議院外交防衛委員会客員調査員、TBS News Bird特別キャスターを兼務。



