#35 川上高司「緊迫する日中関係とトランプ外交の不確実性―高市政権の主体的防衛戦略―」①

緊迫する日中関係とトランプ外交の不確実性―高市政権の主体的防衛戦略― 川上高司(元内閣官房参与)
高市総理が11月7日に「存立危機事態」に言及して以降、12月6日に中国軍機による自衛隊機へのレーザー試射が発生するなど、日中関係は極めて緊迫している。高市政権は毅然とした対中姿勢を維持しているが、頼りとするトランプ大統領の動向に懸念が生じている。
10月28日の日米首脳会談で盤石な関係を築いたはずの高市総理に対し、11月25日、トランプ大統領から中国との事態の沈静化を要請する電話があった。これは、その前日に習近平国家主席から激しい苦情を受けた後の対応であり、トランプ政権が「現時点での日中関係の悪化は困る」と判断したためと推測される。
この沈静化要請の背景には、米中の一時的な和解がある。10月30日の米中首脳会談で、米国は対中高関税と輸出規制の発動を「1年延期」し、中国はレアアースの輸出規制延期と米国産大豆の購入再開を約束した。これは、来年11月の米中間選挙を控えたトランプ大統領が、支持基盤である製造業労働者や農家の利益を優先する思惑があったためである。米中が立場の異なる台湾問題を議題から外したことも、経済的ディール優先の姿勢を裏付けている。また、首脳会談直後のトランプ大統領の「G2発言」は、同盟国に対し、米国のコミットメント後退への強い懸念を抱かせた。
この懸念は米国内でも共有され、11月20日の上院外交委員会公聴会では、トランプ政権が通商交渉を優先し、台湾への関与を後退させているとして「中国の機嫌とり」であると批判が噴出した。その後、ホワイトハウス報道官は、日米同盟の維持と対中協力関係の構築を両立させる立場を強調し、双方への配慮を示している。
トランプ政権の外交政策の方向性は、12月4日に公表されたNSS(国家安全保障戦略)2025によって示された。NSSは「モンロー・ドクトリン記念日」に先んじて発表され、トランプ政権がこれをアメリカの「モンロー主義」への回帰と位置づけていることを明らかにした。
トランプ大統領はNSSで「米国第一主義」を安全保障戦略の根幹とし、「モンロー・ドクトリンを再確認」すると宣言した。これは1823年のモンロー・ドクトリン、そして20世紀初頭に米州への積極介入を正当化した「ルーズベルト・コロラリー」の歴史をなぞり、今回のNSSを「トランプ・コロラリー」として位置づけている。(続)
かわかみ・たかし 1955年熊本生まれ。元拓殖大学教授。現在、中央大学法学部講師、一般社団法人日本外交政策学会理事長、石破内閣で外交安全保障担当内閣官房参与を兼務。大阪大学国際公共政策博士、ジョージタウン大学留学、米フレッチャースクル研究所研究員、ランド研究所客員研究員を経て、中曽根世界平和研究所研究員、海部俊樹元総理の政策秘書、防衛省防衛研究所主任研究員、北陸大学教授から拓殖大学海外事情研究所所長を経て現職。その間、外務省の国際問題研究所客員研究員、神奈川県庁参与、参議院外交防衛委員会客員調査員、TBS News Bird特別キャスターを兼務。



