#17 川上高司「トランプ2.0の安全保障政策と日本の防衛」

トランプ2.0の安全保障政策と日本の防衛 川上高司
バンス副大統領は2月のミュンヘン安保会議を前に、欧州諸国に対し国防費増強を要求し、そのことで「米国は東アジアの課題に集中することができる」と述べ、トランプ政権の安全保障の基軸を欧州から中国にシフトすることを宣言した。
トランプ2.0の安全保障政策はジェームズ・バンス副大統領、マルコ・ルビオ国務長官、ピート・ヘグセス国防長官、マイク・ウォルツ大統領補佐官、エルブリッジ・コルビー国防次官らの対中強硬派が担う。このうち、ルビオは、中国の最恵国待遇剥奪法案を提出。米中競争は自由主義Vs.全体主義の争いとみる。ウオルツは、中東とウクライナ戦争の早期終結を狙い、米国は中国の脅威に集中すべきとする。そして対中強硬派の理論的支柱は、長期間、政権にいた国防次官のコルビーの戦略にある。
コルビー国防次官は、トランプ1.0の国防次官補代理のときに「国家防衛戦略」(2018年NDS)を策定し、中国を「戦略的競争相手」とし、アメリカの対中強硬政策の理論的支柱となった。
コルビーは著書「拒否戦略」で、第一に習近平の政権は「台湾統一」を実現し、アジア太平洋地域で覇権を確立することにあり、その阻止のため米国の力では不十分であり同盟国とともに「反覇権連合」を形成する必要がある。第二は、ウクライナから早期撤退し中国にパワーを傾注すべきであるとする。この見解は、トランプ政権の外交安全保障担当者のみならず米議会共和党議員にも広く浸透している。
2月の日米首脳会談でトランプ大統領は「同盟国に100%の抑止力を提供」し、「日米安全保障条約第5条の尖閣への適用」を確約し中国への抑止力強化を約束した。ここではでなかったが、日本の「防衛費GDP費3%」が自論である。そうなればウクライナ戦以降、米中間の戦闘では、AIによるドローン戦が主流にモザイク戦(CJADC-2)のコンセプトが主流になろうとしている。その中の武器購入の一部に米国からAI兵器やドローン購入要求もでる可能性がある。
しかしながら、トランプ大統領の目的は中国との「ディール」にある。対中強硬派の任命は「こん棒外交」(ビッグ・スティックで脅しディ―ルをし要求を通す第26代大統領セオドア・ルーズベルトの手法)の一環であるとするならば、米中接近の可能性もあり、日本の安全保障環境に大きな影響を及ぼす。
トランプ政権は、「対中強硬グループ」Vs「ディールグループ」(経済優先派)」にわかれ、どうトランプ大統領が相反する両派閥を取り扱うのかが問題となる。
「ディール派」は経済優先を目的としたイーロン・マスク政府効率化省(DOGE)顧問らの「ビッグテックグループ」である。マスクの経営するテスラは生産台数の半分を中国で生産する。マスクはトランプが中国とディ―ルをする中で、自社のEV車普及を目論んだりするリスクもある。
また、バンス副大統領はディール派に入る。バンスはマスクの長年のビジネス・パートナーであるピーター・ティール(大統領テクノロジー政策顧問)から副大統領に送り込まれた。
一方、実業家のハワード・ラトニックを商務長官に起用した。ラトニックは高関税政策を支持するが、中国ビジネスに深く関わってきたビジネスマンである。さらに、トランプはウォール街出身者のスコット・ベッセントを財務長官に指名した。ベンセントは米国内のインフレ再燃を懸念し、関税引き上げを中国との取引の道具と位置づける。
このようにトランプ大統領は相反する二つのグループの相克を見極めながら、個別案件でどう「ディ―ル」をするのか日本としても見極める必要がある。
かわかみ・たかし 1955年熊本生まれ。元拓殖大学教授。現在、中央大学法学部講師、一般社団法人日本外交政策学会理事長、石破内閣で外交安全保障担当内閣官房参与を兼務。大阪大学国際公共政策博士、ジョージタウン大学留学、米フレッチャースクル研究所研究員、ランド研究所客員研究員を経て、中曽根世界平和研究所研究員、海部俊樹元総理の政策秘書、防衛省防衛研究所主任研究員、北陸大学教授から拓殖大学海外事情研究所所長を経て現職。その間、外務省の国際問題研究所客員研究員、神奈川県庁参与、参議院外交防衛委員会客員調査員、TBS News Bird特別キャスターを兼務。



