#13 村井友秀「中国の台湾攻略作戦」

中国の台湾攻略作戦 東京国際大学 特命教授 村井友秀
 国際法は民族が国家を持つ民族自決(一民族一国家)の権利を認めている。それでは台湾人は民族か。人間を外見(遺伝子)で分類した人種とは異なり、民族とは歴史的に形成された運命共同体である。人種は科学であり、民族の本質は感情である。「民族はその構成員が激情的に運命共同体であると信ずるがゆえに民族である」と言われる。中国共産党が主張するように、台湾人と中国人は人種が同じである。しかし、世論調査によると、台湾に住む人の7割が自分を中国人ではなく台湾人だと認識し、自分が台湾人ではなく中国人だと思っている人は2%に過ぎない。民族の本質が感情ならば台湾人は民族であり、一民族一国家をもつ権利がある。

 他方、正統性がある政府には領土と国民を統治する統治権がある。分離独立運動は国家の統一に対する重大な犯罪と見做され、政府が武力で鎮圧することは違法ではない。しかし、世論調査によれば20歳から39歳の台湾人の7割が侵攻してきた中国軍と戦うと答えている。

 西太平洋において米軍が中国軍を圧倒している現状を考えれば、中国の台湾占領作戦が成功するためには、外交交渉によって米国の介入を阻止することが絶対に必要である。外交交渉はギブアンドテイクであり、中国が台湾を取れば、その代わりに米国に何かを渡さなければならない。「偉大なアメリカを復活する」という米国が台湾を失っても満足するような提案を中国がすることは難しいだろう。米国の不介入が保証されない状況で、台湾に侵攻すれば米軍の参戦によって中国軍が敗北する可能性がある。共産党支配を支える中国軍が大打撃を受ければ、中国本土で共産党支配が揺らぐことになる。

 他方、台湾が統治する中国沿岸の小さな島である金門島や馬祖島を占領する作戦はリスクが小さい。金門島や馬祖島は元々台湾省ではなく福建省の一部であり、台湾独立派が主張する独立台湾に含まれない島である。小さな島(180㌔平方㍍)を失っても台湾の抵抗は限定的だろう。米国の世界戦略に対する影響も少ない。しかし、これらの島は1950年代に毛沢東主席が占領しようとして失敗した島であり、習近平主席が奪取に成功すれば毛沢東を超えたと主張することが出来る。習近平主席にとって政治的利益は大きい。

 現在の国際関係と米中軍事パランス、そして台湾の抵抗力を見れば、中国共産党にとって、中国沿岸の小さな島を占領する作戦が最も合理的な軍事作戦になるだろう。

むらい・ともひで 1949年生まれ。1978年東京大学大学院社会学研究科国際関係論博士課程退学。米国ワシントン大学国際問題研究所研究員を経て、防衛大学校国際関係学科教授。2015年退官後現職。日本防衛学会名誉会長。主な著書に『失敗の本質』『中国をめぐる安全保障』『戦略の本質』『戦略論大系7毛沢東』『現代の国際安全保障 安全保障学のフロンティア』『日中危機の本質』等多数がある。平和安全保障研究所奨学プログラム2期生、平和・安全保障研究所監事・研究委員。

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