闇バイトの10代が「金の延べ棒」を狙って襲撃し懲役6年求刑…父親が払った示談金100万円の意味【裁判傍聴記】
2人組の男が、キャリーケースをゴロゴロと転がしていた。中には、刻印のない金の延べ棒が入っている。襲う側は、そう聞かされていた。
そこへ、鉄パイプと催涙スプレーを持った5人が襲いかかった。SNSの闇バイトで集められた5人だった。
法廷の弁論で説明された、事件の場面だ。
2026年晩夏のある日、東京地裁。強盗致傷の罪に問われた男の裁判員裁判を傍聴した。事件当時、男は未成年だった。この日は最終弁論だった。強盗致傷は、強盗の際に人にけがをさせた罪で、裁判員裁判で裁かれる。
裁判員裁判は、弁論がとてもわかりやすかった。裁判員向けに資料やグラフが用意されていて、「何ページの何々を見てください」と進んでいく。傍聴席から資料は見えないけれど、丁寧に作られているのは伝わってきた。
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反社会的組織の金だから盗んでもいい
男は、SNSの高額バイトのような募集に応じた。集まった人たちに、誰かを襲えという指示が下りる。
狙ったのは、外国籍の男性2人組が運んでいたキャリーケース。指示役からは、これは反社会的組織が密輸した金だから、盗んでもいい、と伝えられていたという。弁論では、指示を出した計画者も、日本の反社会的な組織のグループだと説明された。
結局、キャリーケースは奪えず、男は捕まった。
襲われた2人のうち1人は、全治6カ月のけがを負い、入院したと説明された。弁護側によると、入院した1人は、被告人を訴えるつもりはないし、持っていたものが何かも言えない、と話しているという。本当にケースの中に金が入っていたのかは、わからない。
この男のために、100万円を払った人がいる。
父親が払った100万円
検察は、懲役6年を求刑した。
弁護人が最終弁論で強調したのは、示談金のことだった。100万円の示談金を払っている。出したのは、男の父親だった。
それを聞いて、むなしさを感じた。
そもそも、入院した1人は、訴えるつもりはないと話しているのだ。それでも、100万円は払われる。情状酌量の材料をそろえるための、機械的な支払いのように、私には見えた。情状酌量は、事件の事情や反省の様子などを考えて、刑を軽くすること。示談が成立しているかどうかは、その材料のひとつになる。
さらに弁護側は、男は計画そのものには加わっていないと主張した。報酬は高額だと言われていたという。男は事件のあと実家に戻っていて、これからは親の監視のもとで暮らす、と弁護側は説明した。だから、実刑ではなく、執行猶予付きの判決にしてほしい。
言い渡される刑が3年以下でないと、執行猶予はつけられない。検察の求刑は6年なので、弁護側は、刑を大きく軽くするよう求めたことになる。弁護人は、こうした事情を事細かに、漏れなく並べていった。
傍聴席から
私が引っかかったのは、法廷に立たされている男の方ではなかった。
弁論の説明通りなら、金を運ばせた側がいて、闇バイトで人を集めて襲わせた黒幕がいる。けれど、企んだ人たちが捕まったという話は、法廷では出てこなかった。
駒のように使われた若者が動いて、その若者が、法で裁かれる。代理戦争みたいだと思った。
結局、ルールの外にいる人間がいちばん強いんじゃないか。憤りを通り越して、不可解さが残った。男は、自分の罪を、まだ受け止めきれていないように見えた。
最後に、何か言うことはありますか、と裁判長に聞かれて、男は答えた。
「反省しています」
すこし、ぶっきらぼうな言い方だった――。
文/栗林康弘 内外タイムス






