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検索も買い物もAI任せになる時代へ…ChatGPTをEUが規制する背景、Visa・MastercardはAIの“身元確認”

1億5910万人。

これは、ChatGPTの「検索」機能を欧州で使っている人の数だ。欧州委員会は8月31日、この数字を根拠にChatGPTを「超大規模オンライン検索エンジン(VLOSE=EUで特に利用者数が多い検索サービス)」に指定した。

EUのデジタルサービス法(DSA=巨大ネットサービスに安全対策や情報開示などを求める法律)が定める基準は月間利用者4500万人。ChatGPTはその3倍以上をたたき出していたことになる。

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同じ日、掲示板サービスのRedditと、オンラインゲームのRobloxも「超大規模オンラインプラットフォーム(VLOP=EUで特に利用者数が多いネットサービス)」に指定された。これまでGoogleやFacebook、TikTok、Xなどが並んでいたEUの最重要監視リストに、対話型AIが初めて加わった格好だ。

指定された企業には重い宿題が課される。4カ月以内、2027年1月までに、自社サービスがもたらす「社会的リスク」を評価し、対策を示さなければならない。DSAに違反すれば、世界年間売上高の最大6%という巨額の制裁金を科される可能性もある。

人間の思考や判断がアメリカのAI企業に乗っ取られてしまう危惧

もっとも、ChatGPTが使えなくなるわけではない。変わるのは、運営するOpenAI側の責任の重さだ。

なぜEUはそこまでAI企業の責任にこだわるのか。

それはAIが、これまでになかった変化をもたらそうとしているからだ。

これまでネットで何かを調べるとき、人間はGoogleに言葉を打ち込み、表示された複数のサイトから自分で選んで読んでいた。ところがChatGPTに「おすすめは?」と聞けば、検索し比較し結論まで、まとめて答えを出してしまう。

その性能は日を追うごとに進化している。例えば、仕事場で使う椅子を新調しようと思ってChatGPTに尋ねてみると、予算をもとに新品はもちろん、中古まで検索して提示してくれる。

さらに「特に守りたいのは尻か腰か」などと親切な質問で、ユーザーの求めるものを見つけ出そうとしてくれる。

便利である、しかし、便利になったということは、人間が判断をAIに委ね始めていることにほかならない。

いま、EUが警戒しているのはこの部分。つまり「人間の思考や判断全般が、アメリカのAI企業の作ったサービスに乗っ取られてしまうのではないか」という危惧だ。

思考や判断力をAIに乗っ取られるといえば、いささかSFじみている。でも、既に世界は将来的には便利さのために人間は思考や判断の一部をAIに委ねるという予測で動いている。

例えば9月10日、クレジットカード大手のVisaとMastercard、それにAnt Internationalがそろって発表したのが、買い物をするAIの「身元」を確認する仕組みづくりだ。名付けて「Know-Your-Agent(KYA=そのAIが誰の代理として、どんな権限で動いているのかを確認する仕組み)」。カード会社やAIサービス、ネット通販の間で「いま取引しようとしているAIが、誰の代理なのか」を確認し合う枠組みだという。

これは、単発の実験ではない。将来的にはAIが人間の代わりに買い物をするようになることを見越した仕組みづくりなのだ。

AIが予約から代金支払いまで

今年に入ってから、AIが実際に金を払う実証は、すでに3つの大陸で連鎖している。

1月28日、オーストラリアではコモンウェルス銀行(CBA)のデビットカードを使い、AIエージェント(利用者の指示を受け、検索や比較、予約、購入などを自動で進めるAI)が映画チケットを購入した。さらにWestpacのクレジットカードでは宿泊予約も実施された。Mastercardの「Agent Pay(AIエージェントによる決済を安全に行うための仕組み)」を使った、同国初の認証済みエージェント決済だった。

2月16日にはシンガポールで、DBS銀行とVisaが「Visa Intelligent Commerce(AIエージェントに安全に決済させるためのVisaの仕組み)」を使い、AIエージェントによる飲食店での決済を実証した。

3月2日には欧州で、SantanderとMastercardが「Agent Pay」を使い、AIエージェントが利用者の代理として決済まで完了する取引を行っている。管理された環境でのパイロット(本格導入前の実証実験)ではあるが、実際の決済インフラを使い、あらかじめ定められた上限と権限の範囲内でAIに金を使わせたものだ。

さらに同4日にはシンガポールで、DBS、UOB、Mastercardが、AIエージェントに空港までの配車予約と決済を任せる取引を実施した。

わずか約5週間で、オーストラリア、アジア、欧州と3大陸にまたがってAIが金を払う実証が続いた。まだ本格的な商用サービスではないが、もはや一地域だけの実験でもない。

「予算2万円で一番いいものを買って」と指示するだけ

こうしたサービスが予測する未来とは、こういうものだ。

これまでは「2万円以内でイヤホン探して」とAIに相談し、出てきた候補を見て人間がAmazonで注文するのが普通だった。だがこの先は「予算2万円で一番いいものを買って」と指示するだけで、比較から注文、決済まで全部AIがやってくれる。

それどころか「そろそろ買い換え時期だな」と人間が考えるより先にAIが判断して注文までしてくれる未来も予測できる。

そうなると、新しい心配事が生まれる。本当に本人がそのAIに買い物を頼んだのか。上限はいくらまでか。誰かがそのAIを乗っ取っていないか。

AIが人の代わりに金を使う時代には、「このAIは誰の代理か」を確かめる仕組みが必要となる。だから、Mastercardが進めるAI決済の構想にも、利用者の同意確認や支出上限の設定といった項目が、すでに並んでいる。

SEOの次は「AIにどう評価されるか」を競う時代

これはビジネスの仕組みも変えようとしている。かつて、検索エンジンで上位に表示されるための対策「SEO(検索結果で自社サイトを上位に表示させるための工夫)」が一大産業になった。同じことが、AIを相手にした市場でも起き始めている。

これから物を売る側が意識すべき相手は、人間の目だけではない。価格、レビューの中身、返品条件、在庫の有無。そうした情報をAIがどう読み取り、どう比較し、誰の代わりに選ぶかが、売り上げを左右するようになる。「人間にどう見えるか」ではなく「AIにどう評価されるか」を競う時代が、もう始まろうとしている。

情報の入り口を誰が握るか。金の出口を誰が握るか。この二つは長らく別々の問題として語られてきた。検索エンジンを握る企業と、決済網を握る企業は、違う土俵で戦ってきたはずだった。

EUによるChatGPTの指定とKYAは、直接つながった制度ではない。それでも、ほぼ同じ時期に、国家はAIの社会的影響を監督し始め、決済企業はAIに金を使わせるための本人の意思と権限を確認し始めた。この二つの動きは、AIの立場が変わりつつあることを象徴している。

おりしも先日発売された拙著「『デジタル主権』戦争」(扶桑社新書)では、検索やSNSなど「何を見るか」を左右する情報の入り口と、VisaやMastercardなど「何に金を払えるか」を左右する決済網を、現代社会の主権をめぐる二つの重要なインフラとして追ってきた。

今回の動きは、その二つがAIエージェントによって一つにつながり始めたことを示している。AIが情報を選ぶだけでなく、最終的に金まで動かすようになれば、「誰が決めるのか」という問題は、これまで以上に身近になる。

次にネット通販で何かを買うとき、その注文ボタンを押すのは、あなた自身だろうか。それとも、すでにあなたの代わりに判断を終えたAIだろうか。

文/昼間たかし 内外タイムス

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