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時計の午後と午前を勘違い、泥酔後に睡眠時間“数分”で運転…被害者はねた60代配送業男性は最後まで“他人事”【裁判傍聴記】

配送業に従事していた男性のS被告(66)は昨年6月8日午後6時20分ごろ、横浜市内で業務用の冷蔵冷凍車を運転して路側帯にいた男性(74)をはね、さらに民家の玄関に突っ込んだ。バックしたものの、今度は急発進して反対側歩道の車止めに衝突して止まった。

現場に駆け付けた捜査員が事故の約20分後に実施した飲酒検知で、S被告の呼気から1リットルあたり0.65ミリグラムと酒気帯び運転の基準値の4倍以上にあたるアルコールを検出した。明らかに酒の臭いがして、歩行はふらつき、「何が起きたか覚えていない」と話したという。

S被告はその場で逮捕され、男性は搬送先で全身打撲による死亡が確認された。

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5時半頃に飲み会終了し、目覚めると6時15分…

今年10月、横浜地裁で開かれた初公判で、危険運転致死罪に問われたS被告は起訴内容について「(間違いは)ありません」と、淡々とした口調で認めた。

事故に至る経緯は次の通りだ。仕事が休みだったS被告は午後2時ごろから仕事仲間約10人とともに、飲食店でビールやハイボール、レモンサワーを計約10杯飲んだ。5時半ごろに飲み会は終了し、仲間たちと別れてタクシーで帰路につき、6時過ぎに自宅アパート前に到着した。

翌日は朝の6時半に東京都内で配送する荷物を業者から引き取らなければならず、午前5時半には自宅を出発する予定。帰宅後、酔いもあってそのまま寝入った。

目覚めると、時計は既に6時15分になっていた。完全に寝過ごしたと焦り、都内の現場に遅刻するのは確実だが取り急ぎ向かおうと作業着に着替え、6時20分には自宅前に停めていた冷蔵冷凍車に飛び乗って出発した。

「頭がクラクラし、目がショボショボする」感覚はあったが、一晩寝ているし「運転はできる」と思っていた。自宅を出てすぐの丁字路を左折し、またすぐの丁字路を右折した。その後の記憶は、「玄関にぶつかって止まっているところ」まで飛ぶ。

つまり、男性をはねた記憶は残っていない。そして、バックで玄関から移動しようとした記憶はあるが、その後は、車止めに衝突したことも覚えておらず、運転席で人に起こされて気付いた。

飲酒検知や捜査員とのやり取りも「あんまり覚えていない。手錠を掛けられたことは、少し覚えていますけど…」。記憶がはっきり戻ったのは、留置場で「次の日の朝」だった。

もう気付いた人も多いだろう。冒頭に書いた事故時間の「午後」6時20分ごろというのは、誤植ではない。S被告が自宅で目覚めた際に見た時計の「6時15分」は翌朝ではなく、飲酒した当日の午後。本人は「一晩寝たから運転できる」と思い込んでいたが、実際には数分程度しか寝ていなかったわけだ。

病院での治療費約140万円も未払い

「朝と勘違いしちゃって…」というS被告。「酔っ払い運転という認識はないんですよ」。男性をはねた直接の記憶がないせいか、スキンヘッドのS被告は終始、口調も表情も淡々としていて、供述はどこか“他人事”のように聞こえてしまう。

弁護人「時計の時間を取り違えたのは、なぜでしょうか」

S被告「もう、飲みすぎですね~」

弁護人「運転の際、お酒が残っているという感覚は」

S被告「酒が残っているとは、全然思っていなかったんですよ~」

2つ目の丁字路を右折してからの記憶が「飛んだ」ようだが、実際には「目の前が真っ黒になった」という。そして「ブレーキを(足で)探した記憶はある」ものの、ブレーキを的確に踏むことはできなかった。

被害男性は理容師で、結婚歴はなく独身だった。近くに住んでいた実姉によると、男性の普段の行動からみて事故当時は近くのスーパーに買い物に行こうとしていたとみられる。

S被告の“他人事”な印象は、別の事実からもさらに濃くなった。男性の姉は、被害弁償の保険対応が一切進んでおらず、搬送先の病院での治療費約140万円の支払いもできていない状態だと明かした。

被告運転の車両は配送の元請け業者名義のため、同社が保険対応を担う形。だが、1年以上が経過した公判段階でも対人賠償の手続きは進んでいなかった。S被告は「今年に入ってから」保険対応の状況を同社に確認したとは言うものの…

「(弁護人に)『状況を調べてみます』と言われたので、そのまんまにしちゃったんですよ」「元請けが『保険は終わっている』とうそをついて…実際は(終わったのは)対物だけだったんです」

「申し訳ないことしちゃった」

被害者の遺族に対しては「保険会社から止められていた」ため、謝罪の申し出なども一切してこなかったS被告。被害者の遺族に対して何か言いたいことはないか、と問われたS被告は次のように答えた。

「この場では、ないですよね~。申し訳ないことしちゃった、と。それしかないです~」

「ね~」「よ~」などと語尾を軽く伸ばす口調に悪気はないのだろうが、やはり“他人事”な響きを感じてしまったのは筆者だけだろうか…。涙ぐんだり、言葉を詰まらせたりといった感情の揺れを感じさせる場面は全く見受けられなかった。

横浜地裁はS被告に拘禁刑9年の判決を言い渡した。裁判長は「車の運転に一層の注意を払うべき配送業に従事しながら、正常な運転が困難だったことは明らかな状況で運転した意思決定は厳しい非難に値する」と断罪した。

傍聴席の検察側前列には明らかに被害男性の遺族と分かる関係者数人が座っていたが、S被告は最後まで頭を下げることもしなかった。

文/篠田哉 内外タイムス

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