家族ぐるみの付き合いをしていた親友の妻を強引にラブホテルに…一夜で崩壊した友情と信頼【裁判傍聴記】
2024年7月の土曜日。S夫妻の自宅で開かれたホームパーティーは、19時ごろにお開きとなった。
出席していたのは50代の6人。ホストのS夫妻、Y夫妻、A夫妻のうち妻Bさん、男性のU氏。今回は用事があり欠席したA夫妻の夫A氏を含む男性陣4人は大学時代からの友人で、20年近く家族ぐるみで親しく付き合い、持ち回りで年に一度ホームパーティーを開いていた。
午後1時にスタート。特に男性陣3人は飲み続けて相当に酔っ払い、U氏は終了時には完全に寝入ってしまった。Y夫妻とBさんは帰宅するため、バスで最寄りの駅まで行くことにした。
S氏の妻は後片付けで自宅に残り、S氏は自宅近くのバス停まで見送りに行った。バスはすぐに来て、帰る3人とともにS氏もバスに乗った。そして目的地の1つ手前のバス停で、S氏は急にBさんの腕を取ってバスから降りた。戸惑う様子のBさんを見て、Y夫妻の妻も夫のY氏を連れて降りたが、酔った夫に気を取られたか、2人を見失った。
数分歩いてS氏がBさんを連れて入ったのは、ラブホテルだった――。
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胸を触り、キスをして…全治16日間のけが
「申し訳ございませんが、記憶がございません」
今年10月、横浜地裁で開かれた初公判。紺のスーツにネクタイを締めて出廷した会社員のS被告(52)は罪状認否で、うつむき加減にそう答えた。穏やかそうな表情で、いたってまじめなサラリーマン管理職といった雰囲気なのだが…。
罪状は不同意わいせつ致傷罪。起訴状などによると、ラブホテルに入って以降のてん末は次の通りとされた。
ホテルの1階ロビーでS被告はBさんの背後から抱き着き、着衣の上から胸を触り、ロビーから逃げ出して駅方向に向かったBさんを追いかけて近くの路上でさらに背後から抱き着き、着衣の上から胸を触り、口にキスをして、その際にBさんを転倒させて太ももや腕、唇に全治16日間のけがを負わせた。
検察側はホテルの防犯カメラ映像を証拠として提出し、動画を法廷で再生した。ロビーに入るや否や、S被告はBさんを背後から抱き着いて無人だった受付カウンターのところに強引に追い込む。
嫌がり振り払おうとするBさんを強い力で押さえつけ、一度はロビーから外へ逃げたBさんを連れ戻して、しゃがみ込みながら何やら会話を交わす。そしてBさんはロビーから出て、S被告も続いて出た。
S被告は「記憶がない」とする一方、捜査段階でホテルの防犯カメラ映像を見て、ロビーでBさんを襲っている男性が自分自身であることは認めた。ただ、路上での出来事について明確に記録していた防犯カメラ映像はなかった。
被害者のBさんが証人として、別室からリモート(ビデオリンク方式)で出廷。自身は当時、ほとんど酔っておらず「出来事は全て覚えている」と強調した上で、ホテルロビー内での状況についておおむね次のように証言した。
「被告人に『部屋に入って話がある』と言われ、『話があるならここ(ロビー)で』と言っても『部屋に入らないと話せない』の一点張りだった。目的は性行為であると確信して、ショックを受けました」
路上で再び襲われた際は、「地面にたたきつけられるように倒された。すごい衝撃でした」。そこから何とか逃げ出して、駅へ泣きながら向かった。
「今まで仲良くお付き合いしてきたのに、関係が壊れた。ショックで、涙が止まらず、しばらく駅のホームの椅子に座っていました」
被告の妻は“想像”で夫を擁護
Bさんは翌日夕方、S被告の妻に電話で被害について伝えた。内容はS被告にバスから降ろされたこと、ラブホテルに連れていかれたこと、抱き着かれたこと、けがをしたこと。胸を触られたりキスをされたりといった「わいせつ行為」の主要部分は、「奥様を傷つけたくない」との思いから、あえて伝えなかった。
「奥様は信じられない様子でショックを受けていて、謝罪されました」。これまでの親交もあり、Bさんは当初、“警察沙汰”のような大ごとにすることまでは考えていなかったようだ。少なくとも、妻には不信感を抱いてはいなかったはずだ。
だが、その後の対応にBさんは態度を硬化させる。その日のうちにS被告の妻から、S被告の言い分を聞かされた。「夫がバスに乗ったのは4人で居酒屋に行くため、Bさんをバスから降ろしたのは気持ち悪がっていたから、と夫が言っている」。S被告がうそをついていると考えたBさんは、数日後に警察へ被害を相談した。
Bさんが証言した翌日、今度はS被告の妻が証人として出廷した。そこで妻は、やや不可解な供述をする。
夫が3人とともにバスに乗り、Bさんを降ろしたところまではY夫妻の妻からの電話連絡で把握していた。その後、夫は「ベロベロに酔った状態」で、ハンバーガーを買って帰ってきた。BさんやY夫妻について尋ねると、「電車で帰った」と言っていた。
翌日、夫は「二日酔いで気持ち悪く、何も記憶にない」状態だった。そして夕方のBさんからの電話で、まさかの事実を知らされた。
「信じられない気持ちで、泣きました。夫に殴りかかり、物を投げ、冷静になれず、心が壊れて何が何だか分からなくなって…」
なぜ一緒にバスに乗ったのか、なぜBさんをバスから降ろしたのか――。妻は夫を問い詰めながら、「夫は4人で居酒屋に行って飲み直そうとしたのではないか」と想像した。そして「夫は優しさのために、酔っていたBさんをバスから降ろしたのでは」と想像した。
夫に何を聞いても、自分の考えをぶつけても、「記憶がない」と言うばかり。そして…。
「夫が『そんなに言うなら、そう(Bさんに)伝えればいいじゃないか』と言ったので、『じゃあ言うわ』と…。売り言葉に買い言葉で、伝えてしまいました」
「心臓をえぐられる思い」
妻の説明を事実と仮定すると、「バスに乗ったのは4人で居酒屋に行くため、Bさんをバスから降ろしたのは気持ち悪がっていたから」とS被告が言ったわけではなく、妻が夫との言い合いの中で感情的になり、自身の“想像”をBさんに伝えた。妻が感情に任せて不正確な事実を伝え、Bさんを怒らせたということになる。
裁判長も、妻の説明が今一つ腑(ふ)に落ちなかったのだろう。けげんな表情で「何のためにそんなこと(Bさんに)言ったのですか」と2度にわたりたずね、さらに「今回、裁判沙汰になったことについて、あなたが(責任を)かぶるような話になっているのですが、本当にいいのですか」と念を押した。妻は「それもあると思います」と、自身に責任の一端があるとの姿勢を崩さなかった。
S被告は被告人質問でも「覚えていません」「記憶になく、否定も肯定もできない状態です」と繰り返した。妻としては、夫が「記憶にない」との供述を貫く中、少しでも夫をかばおうとする意図があったのかもしれない。
Bさんは結審前に被害者としての意見陳述を文書で行い、「被告人だけでなく妻からも虚偽証言や作り話をされ、心臓をえぐられる思いがした。自己保身しか考えておらず、失望した」とS夫妻への不信感をあらわにした。そして「被告人が記憶をなくしているとは、とうてい信用できない」と強調した。
横浜地裁が言い渡した判決は懲役3年、執行猶予5年(求刑・懲役4年)。Bさんの供述の信用性を認め、弁護側の無罪主張は退けた。S被告の犯行は「執ようなものというべきだ」と指摘する一方で、「同種事案の中では、わいせつ行為の態様は特に重いとまでは言えない」と判断。前科がないこと、被告なりに謝罪の言葉を述べていることなどを考慮して執行猶予を付したと説明した。
実刑こそ免れたが、当事者のS被告は当然ながら、妻までもが20年来の大切な友情を失った。
文/篠田哉 内外タイムス






