中国の格安ホテルではマイ歯ブラシを持参すべき理由 使い捨て歯ブラシの恐るべき実態
「安ホテルのアメニティーは信じない方が良い」
格安ホテルの備品は、品質が期待を裏切るだけでなく、そもそも設置すらされていないケースも多い。よく日本でも使われる言葉だが、いまの中国ではさらに深刻な意味で使われている。
現在の中国を象徴する言葉に内巻(過酷な過当競争)がある。この「内巻」が広がるホテル業界では、今も激しい価格競争が続いている。
日本では信じられないようなクオリティーの客室が、一泊わずか数千円。一見すると旅行者にとって魅力的な格安ホテルだが、その裏側では恐るべきコスト削減が行われている。
今回は、中国で大きな話題となっている最新のニュースをもとに、安さの裏に隠された驚がくの裏舞台をレポートする。
医療・衛生廃棄物を洗浄せずにリサイクル
6月上旬、中国中央電視台(CCTV)の報道番組が、ホテルのアメニティーとして広く使用されている「使い捨て歯ブラシ」の製造裏ルートを暴露した。
市場に出回る安価な使い捨て歯ブラシの一部に、有害なリサイクルプラスチックが違法に使用されている実態が判明し、消費者の安全を脅かす重大な社会問題へと発展しているのだ。
こうした使い捨て歯ブラシは、コストを極限まで抑えるために、小規模な加工工場で廃棄物が洗浄や消毒を一切経ずに再利用されていた。
リサイクルプラスチックの原材料となるのは、溶剤が付着したままの化学薬品用プラスチックバケツをはじめ、未開封や使用済みの不織布マスク、防護服の端切れといった医療・衛生廃棄物。さらには古いスリッパの端切れ、黒いゴミ袋、ビニールひも、靴べらといった日用品のゴミまでが、そのまま投入されていた。

極めつけは、回収された古い歯ブラシだ。ブラシ部分を刃物で切り落とし、残った柄の部分をそのまま再利用していたという。
製造プロセスも不正に満ちている。回収されたゴミは一切洗浄や消毒をされることなく、そのまま粉砕機へと投入される。
当然、出来上がったプラスチックの破片は汚れにまみれているが、ここに黒や赤、青などの着色剤を混ぜ合わせることで、それらを隠蔽(いんぺい)。見た目だけは均一なプラスチックのペレットへと成形してしまうのだ。
こうして作られた安価な材料を、歯ブラシ工場はコスト削減のために新品のプラスチック原料に一定の割合で混入させていく。
出荷価格わずか1.3円の格安歯ブラシが流通
この徹底したコストカットが生んだのは、驚がくの価格破壊だ。
報道によると、こうしたリサイクルプラスチックを混合して作られた最安値の歯ブラシは、出荷価格がわずか「0.06元(約1.3円)」だという。そして恐ろしいことに、この超低価格品が現在のホテル用アメニティー市場で最も多く流通している主流商品だったのだ。
当然、こうした劣悪な歯ブラシは、人体に深刻な健康被害をもたらす。口内には血管が密集しており、もともと粘膜の吸収率が非常に高い。そこへ歯磨き粉に含まれる界面活性剤が合わさることで、歯ブラシに含まれる有害化学物質が体内に侵入する。
こうして作られた劣悪な歯ブラシは、主に小規模なホテルや民宿へ流れていた。
こうしたホテルにとって、使い捨てアメニティは安価な消耗品にすぎず、仕入れルートにおけるトレーサビリティー(追跡可能性)よりコスト削減を優先する傾向が強い。
また、わざわざホテルのアメニティーに問題がないか、確認する消費者も少ないだろう。
報道が放映された当日の夜、報道の舞台となった江蘇省・揚州市では当局による現場の査察が行われた。嫌疑のかけられた事業者に対する調査が行われ、証拠として4.4トンが押収されたという。
今回の事件はサプライチェーンにおける盲点と、過度な低価格競争(内巻)が引き起こした事態と言えるだろう。その結果、宿泊客の健康を脅かし、ホテル業界全体の信頼を根底から揺るがす事態を招いている。
筆者も、環境保護の観点はもちろん、自らの健康を守る自己防衛策として「旅行時にはマイ歯ブラシを持参」という習慣を当たり前にしていく必要があると切実に感じている。
文/下川英馬 内外タイムス


