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中国で“ホルムアルデヒド白菜”がなくならない理由、法規制があっても防げない構造的要因とは

中国北部・河北省張家口市康保県で、発がん性物質のホルムアルデヒド入り溶液に浸された白菜の出荷が判明し、波紋を呼んでいる。

この事件の発端は8月22日に環境系インフルエンサーの「漁猎齐哥」による告発動画だった。彼は現地の集荷場で、買い付け業者が収穫直後の白菜の根元をホルムアルデヒド溶液に浸してからトラックへ積載・出荷していた実態を撮影・告発した。

この動画は瞬く間に拡散した。そして動画を問題視した当局によって調査が行われ、内容が事実であることが確認された。現場では、こうした処理が日常的に行われていたことをうかがわせる証言も出ており、現地メディアの澎湃新聞は同29日には関与した容疑者3名が当局によって逮捕されたと報道している。

中国で脅かされる「食の安全」、違法薬品漬けヤマモモ事件で5人逮捕

中国でもこの問題は大きく取り上げられている。ニュース拡散後、主要道路に警察・行政が検問所を設置。通過するすべての白菜運搬トラックを停車させ、抜き取り検査している。

それにもかかわらず蘇州・上海・広州などの市場で受け入れ拒否が発生、康保県では大量の白菜が畑に取り残されている。

以前の記事でも取り上げたが、中国ではこうした食の安全問題が繰り返し発生する。そして、そこには中国の農作物が抱える構造的な問題がある。

繰り返される食の安全問題

実は、この「ホルムアルデヒド白菜」問題は初めてではない。ホルムアルデヒドは根元の変色や腐敗を防ぎ、葉の張りを持たせ、2~3日程度は鮮度を保っているように見せることができる。

中国では2008年にホルムアルデヒドが食品への禁止添加物に指定されているが、この薬品を使用した問題は2012年以降、14年にわたって繰り返されている。

2012年(山東省): 白菜へのホルムアルデヒド噴霧が初告発、行政拘留処分

2014年(山東省): 噴霧に関与した業者が懲役刑

2015年(河北省): 卸売市場での使用が発覚し刑事拘留

2026年(河北省): 噴霧から根元の浸透へと変わった手口が発覚

なぜホルムアルデヒド白菜は14年たっても根絶されないのか、そこには中国の農産物サプライチェーンが抱える構造的問題がある。

中国の農作物が抱えるコストのゆがみ

中国では野菜が安価で手に入る。たとえば上海であっても日本円にして100~200円相当で十分な量の野菜を購入することが可能だ。そして、その安さを支えるのが極めて低い利益である。また、白菜は水分が多く傷みやすい野菜であり、卸売市場やスーパーの店頭では、わずかな変色やしおれがあるだけで買いたたかれたり廃棄されたりする。

今回の康保県の事件では、違法処理を行っていたのは生産農家ではなく、白菜を買い付けて輸送する業者だった。白菜は畑ごとに買い取られ、収穫・積み込み・輸送は買い付け業者が雇った作業員が行う。農家は収穫現場に立ち会わないため、業者がどのように積み込んでいるか知る由もなかった。

野菜の流通業は薄利多売かつ、腐敗による廃棄や長距離輸送のコストが利益を圧迫する。新鮮な野菜を輸送するには冷蔵トラックのほかにも冷蔵倉庫の電力費や保管費が必要になる一方で、違法な薬品を使った常温トラックでの手抜き輸送は極めて安価だ。

このコスト差がホルムアルデヒドによる違法行為を誘発している。

法規制があっても防げない構造的要因

実は、過去の摘発の多くが行政の定期検査ではなく「記者や動画配信者の潜入告発」によって発覚している点も抑止力の限界を示している。

中国では農地での生産段階や卸売市場などの流通拠点には検査制度があるものの、その中間にある収穫・積み込み・輸送の現場は短時間で作業が完了するため、監督機関の監視が届きにくい空白地帯となっている。

また、日常的な農産物の検査は残留農薬が中心であり、工業用原料であるホルムアルデヒドは通常検査項目に含まれていないため、市場流入前にすり抜けていたのだ。

そのため、法律上は重罪であっても発覚する確率が低く、流通業者には違法手段を優先するメリットがある。

今回の事件が示しているのは、食品安全の問題であると同時に、安さを成立させるコストがサプライチェーンのどこに押し付けられているのかという問題でもある。

文/下川英馬 内外タイムス

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