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離婚して子どもとも疎遠な60代の孤独な元SEが食料を窃盗…被害妄想膨らみ支離滅裂な供述【裁判傍聴記】

白髪でボサボサの長髪姿は失礼ながら書家バクザン先生のようだった。その日、刑務官に連れられ入廷してきた男(事件当時61歳)の印象である。

罪名は住居侵入、邸宅侵入、窃盗。罪名からある程度は想像できるものの、エキセントリックな被告人の風貌からなにか想像を超えた起訴状が読み上げられるのではないかと緊張が走る。

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被告人は令和8年4月24日6時57分に大分県日田市内の住居に侵入しようと敷地内に入るも生活音が聞こえ断念。以前、侵入したことのある別荘にかじを切り直し侵入、食料3000円相当を窃取した。

蓋を開けてみると想像を超えた起訴状は読み上げられず、いわゆる“ありがち”な犯行であった。

20年前から無職、貯金が底を尽く

男は中学を卒業して一度、自衛官になっている。傷害の罰金前科一犯を有し、婚姻歴があり、二子をもうけるも離婚。子どもたちとも疎遠になっているようだ。

両親は亡くなり、日田市内にある実家にて一人で生活していた。20年前から無職であり、令和6年頃に貯金が尽き、令和8年1月ごろから自宅近くの別荘に侵入し食料品を盗むようになる。

男の妹は警察への供述で「兄は20年間引きこもり、母の年金を当てに生活していた」と述べている。

弁護人「事件当時、どういう生活をしていたのですか?」

被告人「日田の実家に一人で暮らしていました。仕事は何もしていません。2年前から2型糖尿病で収入がありませんでした。年に4回、椎茸の収穫期に1カ月手伝って1回につき20万円くらいもらっていました。貯金はありません。所持金は5千円くらいでした」

弁護人「通院はしていたんですか?」

被告人「当時、通院は10カ月くらい行っていませんでした。交通費がなかったんで」

弁護人「今回の被害者たちの自宅には捕まるまで何回入ったのですか?」

被告人「食料を盗みに過去9回くらい入りました。反省しています」

ここまでは至って“ありがち”な被告人質問である。ここから被告人質問に少しずつ不穏な空気が漂ってくる。

弁護人「然るべき機関に相談はしなかったんですか?」

被告人「日田市役所に『困窮しています』と相談しました。そしたら、ちょっと信じられないことを言われたので、ここでは控えます」

弁護人「何を言われたんですか?」

被告人「『あなた日本人でしょ?帰化日本人は助けるけど、日本人は助けません』と言われました」

弁護人「市役所には何回行ったんですか?」

被告人「4回行きました。申請書は出したけど通りませんでした」

弁護人「出所後、どうやって生活していきますか?」

被告人「20年くらい付き合っている彼女がいるんで生活をみてもらおうと思っています」

弁護人「そんな方がいらっしゃるんですか?地域生活定着支援センターの方には何と言われました?」

被告人「センターの人から『3食付きで暮らせる所がある』と言われました。でも私は無理だと思いました。私には先祖代々受け継いだ土地を手入れしないといけない、守らないといけない使命があるので、センターがいう人たちの所には行けないんです」

弁護人「でも今の生活を続けていたら、また同じことになるのでは?」

被告人「もうこういうことをすることはないと思います」

弁護人「センターの人たちからは何かあれば言ってくれと言われていますか?」

被告人「頼りません。市役所にも頼らない。頼らないでやっていけますから」

妹からも援助断られ…

質問は反対尋問へ。

検察官「妹さんを頼ろうとは思わなかった?」

被告人「頼ってはみたけど、お断りされました。米を分けてほしいと伝えて一旦、5キロとか分けてもらっていたけど半年後、また行ったら『うちはもう1円も援助しません』と言われました。頭下げても無駄とわかったので止めました」

検察官「元妻、子どもに頼ろうとは?」

被告人「前妻は別の生活があるので。他の人と暮らしているので。息子は一人で生活するのに手一杯で、娘は離婚して娘を一人で育てているので生活が手一杯で、とても頼れません。そもそも私が生活に困窮し始めたのは、息子に家電製品を壊されて弁償してくれない、食べ物を持っていくとかされてからなんです」

検察官「それだったら尚更、なぜ支援機関の支援を拒絶するのですか?」

被告人「土地や山があるので断りました」

質問は裁判官へ。

裁判官「過去にシステムエンジニアとかされていたんですよね?仕事をするつもりはないんですか?」

被告人「勤めるというより元々受けている仕事なんですけど、アメリカとかから仕事を受けてフリーランスでやっていこうと思っています」

裁判官「それは前からやっているのですか?」

被告人「はい」

裁判官「どのくらいの頻度で?」

被告人「週一くらいで1万とかですね」

裁判官「えーっと、じゃぁ、月に4万円くらいの収入になっていたんですね?」

被告人「は?ドルですよ?週に日本円で150万円ですよ」

裁判官「え…?でもお金がなくて、やったんですよね?」

被告人「息子に金がかかって困窮したんです」

裁判官「就職しようとは思わないんですか?」

被告人「就活しているけど、学歴がないから勤められないんですよ。そもそも、ブラック企業に勤めて自分の身体壊すくらいだったら勤めない方がいいでしょう?」

裁判官「彼女に頼ろうとは思わないんですか?」

被告人「『援助しようか?』ってずっと言われていたけど断っていました。でも今後は彼女のマンションで一緒に住もうかと思っています」

裁判官「それは最近、そういう話を彼女とされたんですか?」

被告人「いや、事件前に彼女がそう言っていました。捕まってから会っていませんからね」

裁判官「え?彼女はあなたが捕まっていることを知らないんですか?」

被告人「はい。多分、連絡が取れなくて心配しているんじゃないですかね」

裁判官「判決どうなるかわからないですけど、仮に執行猶予付いても次、悪いことしたら刑務所に行くことになるのはわかっています?」

被告人「はい」

検察は拘禁刑1年6月を求刑し、弁護側は執行猶予付き判決を求めた。

裁判官「最後に言っておきたいことはありますか?」

被告人「言っていいですか?所轄の警察官が私の靴を70足押収したんですよ。押収する理由を聞くと『嫌がらせです』って言われたんです。転売とかするとすごいお金になるんですよ。だから所轄は信用しちゃいかんよって話。不満はもう一個あるんです。某警部補が私の家の鍵のスペアを8本作っているんですよ。どうしてそんなことが許されるのか。それが不満です」

男は現在も土地と妄想に縛られ、日田の実家で一人、暮らしているのだろう。

文/田辺朋之 内外タイムス

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