【福田淳の対談闊歩】齋藤健(第4回)100%関税の危機と3年4カ月の浪人生活 「自分は終わった」と何度も思った日々
経済産業省の官僚時代には米国との自動車交渉に携わり、100%関税という国家を揺るがす危機に直面。一度は落選し、初当選まで3年4カ月の浪人生活を送り、「自分は終わった」と何度も思ったという斉藤氏。幾多の困難をどう乗り越えてきたのか。また、高市早苗首相の推し進める政策についてどのように思っているのか。
福田 ちょっと政治的なドロドロとした質問になりますが、高市政権をどう見ていますか?
齋藤 支持率が高いことはものすごく重要で、支持率が高くなければできないことって、いっぱいあるわけです。それを高市さんの政権の下でやるということが、一つの大きなミッションだと私は思っています。
だから、高市さんのやることに必ずしもすべて賛成ではないです。ただ、むやみに反対をして、党内をガタガタさせて支持率を下げてしまって、やらなければならないことがやれなくなってしまうというのが一番バカバカしい。
せっかく皆さんから支持を受けているこの状態を、日本のためにどう生かしていくのか。だから、高市さんがやっていることの一つひとつが良い悪いということよりも、この中で自分がやらなければならないことを、どこまでやるのか。そういった意味では、大変いい政権なんです。支持率が低くて四苦八苦して、何をやってもたたかれるような状況よりはね。
福田 先ほど、ショート動画と選挙の話題が出ましたが、今はSNSを元にして大手メディアが報じているじゃないですか。マイナーなものがメジャーであるかのような錯覚に陥ってしまいますよね。
齋藤 そうなんだよね。私はやっぱり大手メディアが重要な役割を担っていると思っている。フェイクニュースを含めて、ネット情報が溢れる中、本当に信頼できる情報っていうものが(大手メディアには)求められている。今はやられっぱなしかもしれないけど、そういう反転局面っていうのは必ず来るんだろうと思っている。
だから、変に今の時代の流れに迎合することなく、筋を通して、できるだけ公平、フェアな報道っていうものが、いずれまた必要になってくる。「本当に重要な情報というのは、信頼できる人間からしか来ない」と分かる時代が来ると思うんですよね。
福田 そうですね、筋を通して信頼できる人から、人への伝達ですね。
エンタメコンテンツはこれからのとてつもない成長産業

齋藤 そう。そうなると思うので、筋をつなげ続けるということにつきるんじゃないかな。
福田 今回、田原総一朗さんが「必ず日本の総理になるから、会っておかなければダメだよ」ということで、今日少しですが齋藤先生の話を聞いて、その実感を持てました。将来、首相になられたら日本をどうしたいとお考えですか?
齋藤 首相になる、ならないは別として、自分が持って生まれたもの、そして、今持っているものを120%生かしていきたいですね。それがどういう局面で生かせるかは分からないですが、その気持ちは非常に強く持っています。引き続き自分自身、研鑽(けんさん)を重ねていきたいと思っています。
福田 エンタメ(エンターテインメント)業界が世界的に非常に大きな産業になっていて、国の重点分野の中にも入れていただいています。半導体、AI、電力、データセンターもありますが、エンタメもぜひ一体で考えていただけるとうれしいです。
齋藤 もちろん。コンテンツですよね。コンテンツはとてつもない成長産業です。
福田 日本を代表する大きいライブイベントがあった時はお誘いするので、ぜひ一度、視察に来ていただければ。昔の日本人と違ってこんなにも熱狂するのかと驚きますよ。あの熱狂を見ると日本の国力は全然落ちていないなって、いつも思うんです。
齋藤 やっぱり若い人だな。ありがとうございます。
福田 それでは、編集部から質問があれば。
編集部 齋藤先生のこれまでの人生において、最も困難だった「ハードシングス」とは何でしたか? また、その困難をどのように乗り越えましたか?
齋藤 いくつかあるんですが、一つは日米交渉の時かな。「これは日本が絶対に飲めない」というものを、アメリカが「絶対にやれ」と言ってきて、アメリカの言うことを聞かなければ「日本を制裁する」と。その制裁の中身は、日本からアメリカに輸出されている高級車13車種に対する100%関税だった。
戦後、最も難航した日米自動車交渉

齋藤 そうなると輸出は完全に止まる。その頃日産は経営的に厳しかったので、もしかしたら倒産するかもしれない。そういうギリギリの交渉に、当時、通産省通商政策局米州課という日米交渉を取り仕切る部署の課長補佐として、一部始終携わってきた。
チームでやった話ではあるんだけど、最後、交渉期限のギリギリの時にアメリカが降りて、それで胸をなでおろしたんだよね。(もしアメリカが)降りなければ大変なことが起きた。まとまらなかった時に国民に対してどういう声明を出すかという文章まで作っていましたね。だから本当にギリギリで日本を守りきった交渉だったんです。
福田 今はトランプ大統領が15%とか20%とか要求したりしていますけど、100%を体感していたんですね。
齋藤 そう、100%。トランプ関税の比ではない。何が起こるかというと、日本車の輸出が止まる。代わりにヨーロッパの車が入る。ヨーロッパがウハウハで、アメリカもウハウハで、日本だけが取り残される。それを回避しようと思ったらアメリカの言うことも飲まなければならない。本当に苦しかったけど、当時いいチームだったから乗り切れた。戦後、最大級に難航した交渉だと思いますが、それを経験できたのは、今思うとありがたかった。
もう一つはやっぱり浪人中ですかね。明日をも知れない日々だったので、自分は終わったと何度も思った。それでもやると決めた。
この2つですかね。確かに大変だったけど、戦後、シベリアに抑留されていた方々を思うとたいしたことではない。
福田 そういう考えの基盤、元々の性格というのは、ご両親の教育がよかったから?
齋藤 零細企業で生まれ育ったし、特別な教育を親から受けたということもなかったけど、ただ本は読んだよね。親父が本が好きだったので、小学校1年生くらいの時は夜寝る時に毎晩読み聞かせ。3年生くらいから『宮本武蔵』とか読んでいたね。だから、本なんですよ。
ガツガツはせず、さまざまな局面に対応可能に
福田 僕もよくインタビューを受けて「人生で大事なものは何ですか?」って聞かれると、「本読むことと、旅行に行くこと」って答えています。
齋藤 素晴らしい。
福田 たまに「何から読めばいいですか?」って聞かれることがあるんです。「本屋さんに行けよ」って言いたくなるんですが、僕は新潮100選(新潮文庫の100冊)を勧めています。あれ、ものすごくセレクションいいんですよ。(フランツ・)カフカから太宰治まで入っていて、著名な小説家をほぼ網羅できますから。
齋藤 確かにね、歴史の風雪に耐えた本っていうのはそれなりに魅力ありますよね。この間、たまたま奈良、京都を訪問して唐招提寺に行ったんで、井上靖さんの『天平の甍』を読んだけど、やっぱり面白いわ。作品もそうだけど、あんな昔のことを詳細に調べて書く著者の情熱に感動するね。
福田 ショート動画じゃなくて、長い方がいいっていうのに結びつきますね。
齋藤 僕はもう、長編小説派です。
福田 そういう知的好奇心を得て脳が興奮するっていう経験がない人が多いと思うんですよ。本のこともエンタメのこともどちらか一方ではなくて、一体でやらなければダメかなって思うんです。
齋藤 一体でやらないとね。これは言い続けないとダメですよね。おっしゃる通りです。
編集部 衆議院予算委員長への就任で、今後の議会運営、野党との交渉をどのように進めていきますか?
齋藤 委員長だから公平公正に委員会運営をやるということが務めです。どちらの味方でもない立場になると思います。
福田 いつか首相になるため、日々の心構えなんていうものはございますか?
齋藤 ガツガツはしていないけれど、まあ、いろいろな局面に対応できるようにしています。
福田 応援しています。ありがとうございます。

《プロフィール》
齋藤健(さいとう・けん)1959年東京都新宿区生まれ。1983年東京大学経済学部卒。卒業とともに通商産業省(現・経済産業省)に入省。1991年ハーバード大学大学院に留学。1994年通商政策局米州課で日米間の自動車交渉を担当。1999年に深谷隆司通商産業大臣の秘書官、2004年上田清司埼玉県知事の招聘を受け埼玉県副知事に就任。2006年衆議院千葉7区の補欠選挙で自由民主党の公募に応募、出馬するも落選。2009年衆議院議員総選挙の比例南関東ブロックで初当選。2017年第3次安倍第3次改造内閣で初入閣、農林水産大臣に就任。2023年経済産業大臣に就任。2026年2月の衆議院議員総選挙で7選。好きな作家は司馬遼太郎、塩野七生ほか多数。公式YouTubeチャンネル「さいとう犬」を配信中。






