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患者動画の無断投稿、顔を隠せば問題ないのか…類似事件から考えるプライバシーと損害賠償

患者が食事をする姿を、看護師が撮影してSNSに投稿した――。JR札幌病院での問題を受け、病院を運営するJR北海道が患者と家族に謝罪したと、13日に報じられた。病院側は投稿の削除を求め、事実関係の確認を進めている。

安心して治療を受けるはずの場所で、自分の姿が無断で公開される。患者にとっては、病名を知られることだけでなく、療養中の姿を他人に見られることも問題になる。

ただし、私生活上の情報がすべて同じ強さで保護されるわけではない。名前や顔を隠せばよいのか、友人限定なら許されるのか。類似事件と裁判例から、プライバシーが保護される範囲と、被害を受けた側が取れる対応を考えたい。

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病歴や診療情報は「要配慮個人情報」

判例上、私生活上の事実などをみだりに他人に知られない利益は、プライバシーとして法的に保護される。ただし、本人が「知られたくなかった」と感じる情報が、すべて同じように保護されるわけではない。

保護の有無や程度は、その情報の内容や秘密性、一般の人の感覚から見て通常は公開を望まない情報か、すでにどこまで知られていたかなどによって異なる。さらに、誰についての情報か分かるのか、公表の目的や必要性、伝わる相手の範囲などを踏まえて、違法な侵害に当たるかが判断される。

病歴や治療内容は、差別や偏見、生活上の不利益につながり得るため、一般に秘密性の高い情報と考えられる。個人情報保護法でも、病歴や診療情報などは、特に慎重な扱いを求める「要配慮個人情報」とされている。ただし、この法律上の分類と、民事上のプライバシー侵害の判断は同一ではない。

病名の映っていない動画でも、入院している事実や、身体の状態、介助を受けている様子などが伝わる場合がある。単なる食事風景なのか、療養生活や身体の状態まで明らかにするものなのかによっても、保護の必要性は変わる。

また、プライバシーとは別に、自分の容貌や姿態をみだりに撮影・公表されない人格的利益も保護される。撮影や公表が許されるかは、その場所、目的、方法などを踏まえて検討する必要があり、「病名を出していないから問題ない」とは判断できない。

顔や名前を隠しても周囲には分かることも

加工漏れだけでなく、顔や名前以外の情報から本人が分かる場合もある。

裁判例では、匿名で公開されていた女性の写真が転載された事件で、プライバシー侵害を認めた例もある。写真だけでは本人を特定できなくても、一連の投稿やアカウント名との関係から、SNS上の知人には誰の写真か分かると判断したのである。

この考え方は患者動画にも参考になる。声、服装、特徴的な身体の状態、病室、撮影時期、投稿者との関係などが重なれば、家族や知人には本人だと分かる可能性がある。

重要なのは、全国の誰もが分かるかどうかだけではない。一方、本人を識別できず、周辺情報との結び付きもない場合には、判断の前提が異なる。顔の加工の有無だけでなく、投稿全体から何が伝わるかを見る必要がある。

限定公開でも目的を超えた利用は問題に

友人限定のアカウントでも、本来その情報を知らない人に伝えることはある。人数が少なければ当然に適法になるわけではない。公開範囲の狭さや、閲覧者と本人との関係は、侵害の有無や被害の程度を判断する事情になる。

個人情報保護委員会も、医療・介護施設の利用者を識別できる写真について、ホームページへの掲載だけでなく、施設内で第三者に見せる展示にも本人の同意が必要と説明している。

さらに、情報を伝えた目的も重要だ。過去、病院が診療目的で保有していた応募者のHIV感染情報を、同意なく採用活動に利用したことが問題になり、診療に携わる人が知り得た情報を、正当な理由なく採用担当者などに広げた行為について、プライバシー侵害を認めた例もある。

SNSで不特定多数に公開しなくても、侵害になり得るのである。患者が治療のために情報を伝えたことは、採用判断や娯楽目的の投稿にまで同意したことにはならない。撮影自体を了承していても、その目的や公開先まで了承していたかは別に確認する必要がある。

被害に気づいたら証拠保存と削除を進める

自分の姿や情報が投稿されていたら、速やかにURL、アカウント名、投稿日時、画像・動画、説明文を保存したい。本人だと分かる前後の投稿や、閲覧数、共有状況も重要な資料になる。動画はスクリーンショットだけでなく、可能な範囲で内容が分かる形に残す。

「誰に何を知られたか」も記録しておく。知人から届いた連絡、職場や学校での反応などは、本人の特定可能性や、実際の影響を示す資料になる。証拠は相談や請求のために保管し、被害を訴える目的でも問題の動画を再投稿して広げないようにしたい。

証拠保存と並行して、投稿者やSNS運営会社に削除を求める。病院内の情報であれば、病院にも、撮影・投稿された内容や閲覧範囲について調査と回答を求めることが考えられる。公開停止に加え、調査に必要な記録を保存するよう求めることも重要だ。

任意の削除が進まなければ、裁判所への仮処分などを検討する。匿名の投稿者に賠償を求めるには、発信者情報開示が必要になる場合もある。ただし、投稿者を特定する手続と投稿を削除する手続は別であり、開示命令だけで投稿が消えるわけではない。

秘密性や拡散状況などで変わる慰謝料

プライバシー侵害では、金銭的な被害がなくても、精神的苦痛について慰謝料を請求できる場合がある。もっとも、請求が認められるには、違法な侵害、故意・過失、損害、因果関係などの検討が必要だ。

金額は、情報の秘密性、本人を特定できる範囲、公開期間、拡散状況、嘲笑や侮辱を伴うか、仕事や生活への影響、発覚後の対応などによって変わる。同じ「写真1枚」でも、何が写り、誰に伝わったのかによって被害の評価は異なる。

先の写真転載事件では、プライバシーなどの侵害に対する慰謝料として30万円が認められた。これは慰謝料部分の金額であり、判決は写真の内容や公表の態様に加え、もともと本人の同意で別のアカウントに公開されていた事情も考慮している。

一方、HIV感染情報の件では慰謝料150万円が認められたが、医療情報の目的外利用だけでなく、違法な採用内定取消しによる精神的苦痛も合わせた金額である。「病歴を漏らされたら150万円」という相場を示したものではない。

侵害によって治療費や休業損害などが生じた場合には、それらも賠償対象になり得る。ただし、必要性や侵害との因果関係を示す資料が求められるため、領収書、診断書、勤務状況などを残しておくことが役立つ。削除された後でも、それまでに生じた損害について賠償を求める余地はある。

病院だけでなく、職場や学校、日常のSNSでも、限られた目的で伝えた情報が別の場面で使われることはある。何が、誰に、どのように伝わったのかを具体的に整理することが、公開を止め、被害の回復を求める第一歩になる。

文/松本理平 内外タイムス

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