【田母神俊雄のニュース・レビュー】戦争屋と言われる人たち 誰が利益を得て、誰が対立をあおっているのか
世界から戦争がなくならないのは、単に国家同士の利害が衝突するからだけなのではない。私は、その背後には、紛争や緊張状態が生み出す利益を追い求める「戦争屋」と呼ぶべき存在がいるのではないかと考える。彼らは、世界各地で対立の火種を見つけ、あるいは新たに作り出す。
民族、宗教、政治思想などの違いを利用して社会を分断し、国家間の不信感をあおる。そして、本来なら外交や対話によって解決できる問題であっても、相手国を過度に脅威として描き、軍事的な対応が必要だという空気を醸成していく。
なぜ、そのようなことをするのか。それは戦争によって生まれるばく大な経済的利益を追求しているからである。戦争になれば短期間に膨大な消費行動が起きる。短期間に戦争ほど金もうけができるビジネスは存在しない。武器や弾薬、軍用機、ミサイルなどには巨額の資金が投入される。そして戦争が長期化すればするほど、軍需産業を中心とした巨大な市場が動くことになる。つまり、戦争によって苦しむ人々がいる一方で、戦争そのものによって利益を得る人々が存在するのである。
もちろん、世界のすべての紛争を一部の「戦争屋」だけが仕組んでいると断定することはできない。しかし、紛争の背景に経済的利益や政治的思惑が入り込む可能性は常に存在し、やらなくてもよい戦争をわざわざ引き起こしている戦争屋が存在していることも認識しておかなければならない。
利益を得る構造があるなら透明化し、検証することも必要
近年、米国のトランプ大統領が「ディープステート」という言葉を用いて、政府や政治の背後に存在する勢力について批判する場面がある。この言葉をめぐってはさまざまな議論があり、具体的な実態についても意見が分かれている。しかし、重要なのは名称そのものではなく、表に出ている政治家や政府だけを見ているのではなく、それらの背後で何が動いているのかという問いを持つことである。国際政治の大きな動きの裏には必ずそれが起きた原因が存在している。
さらに警戒すべきなのは、戦争を始める方向へ世論を動かした後、その人物や勢力が、今度は「平和」や「正義」を掲げる側に回ることである。戦争を終わらせるための仲介者のように振る舞いながら、実際には対立を長期化するために狡猾(こうかつ)に行動している場合も多い。
私たちは、戦争を単純に「善と悪」の物語として見るのではなく、その背後で誰が利益を得ているのか、誰が対立をあお煽っているのか、そして誰が平和によって利益を失うのかを冷静に考える必要がある。戦争で最も大きな代償を払うのは、政治家でも軍需企業の経営者でもない。命を失い、家を追われ、家族を奪われる一般の人々である。だからこそ私たちは、「なぜ戦争が起きたのか」だけでなく「なぜ戦争が終わらないのか」という問いを持つべきである。
戦争をなくすためには、武力による解決を求める声だけでなく、対話と外交を選択する力を社会が持つことが必要である。そして、戦争によって利益を得る構造が存在するなら、それを透明化し、厳しく検証することも必要だ。
「戦争屋」という言葉を単なる陰謀論として片づけるのではなく、戦争と利益、政治と情報、そして人間の欲望との関係を考えるための問題提起として捉えること。それが、戦争をなくす第一歩になるのではないだろうか。
第29代航空幕僚長 田母神俊雄






