トランプ・金正恩会談は11月に中国で開催か…核放棄なき「核凍結」に現実味
「金正恩氏と会談する」――トランプ米大統領が突然そう言い出し、日本を含む関係国を戸惑わせている。
いつもの口先パフォーマンスと感じるかもしれないが、今回は様相が違っている。聖域とされてきた米韓軍事演習の縮小を急きょ指示するなど条件整備も進めており、韓国の安保専門家からは実現の可能性を指摘する声も出ている。
今のところ北朝鮮は冷淡な反応だが、筆者が関係者に聞いたところでは、会談には前向きだという。2019年2月にハノイで行われた前回の米朝首脳会談には40カ国以上から3000人以上の記者が集まったが、今回実現すれば、それ以上の注目を集めるだろう。
北朝鮮外交再始動への布石か トランプ大統領がSNSに投稿した金正恩総書記と並んで歩く写真に憶測
トランプ氏がSNS上で金正恩総書記との親密な関係を強調したのは、現地時間の8月15日。翌16日には、北朝鮮への「シグナル」となる、米韓合同軍事演習の大幅縮小を国防長官に指示した。
さらにトランプ氏は「金正恩氏が対話要請に応じた」と明かし、11月の中国でのAPEC首脳会議に合わせた首脳会談を側近に指示した。19日には、出所ははっきりしないが「北朝鮮は非常に強力な核兵器を57発保有している」とも言及した。
この矢継ぎ早の発言の背景には、中東情勢のこう着や、中間選挙を前にした自身の支持率低下を劇的な外交成果で打開する狙いがあるとみられる。
北朝鮮は「ドル経済進出」狙う
金総書記の妹・金与正氏は、トランプ氏との対話に否定的な反応を示しているが、これは交渉のハードルを上げるための作戦だろう。
筆者が北朝鮮の外交方針を知る立場にある人物から聞いたところでは、北朝鮮は「自国の経済規模は極めて小さく不安定で、ロシアや中国との関係を通じて一定の経済的安定を得ているものの、経済問題の根本的な解決をもたらすことができるのは米国だけ」と認識しており、トランプ政権との対話を望んでいる。
米国との関係改善を果たし、「ドルを中心とした国際金融ネットワーク」への参入に希望を見いだしているという。
一方、隣国の韓国との経済協力には、過去の失敗経験から不信感が強い。そんな中、米国が軍事演習を自主的に縮小したことは、北朝鮮に対する重要なアピールとなる。
米韓が軍事演習を実施するたびに、北朝鮮は多くの部隊を前線に張り付けて警戒しなければならないからだ。
会談は、11月のAPEC首脳会議に合わせ、中国で行われる可能性が指摘されている。2026年のAPEC開催国である中国は、過度な「北朝鮮とロシアの軍事的接近」をけん制し、東アジアでの外交的主導権を握る「調整役」としての存在感を高めようとしている。
「核凍結」で妥協か
会談が実現すれば、従来の「北朝鮮の完全な非核化」ではなく、追加の開発・生産を止める実用的な「核凍結」が交渉の主軸となる可能性がある。
北朝鮮は非核化には応じない方針を表明しているものの、前出の関係者によれば、「核問題への言及なしに米国との交渉が進まないことは承知しており、実質的には対話の議題となることを受け入れる」姿勢だという。
何らかの譲歩をした上で、事実上の「核保有国」としての地位を求める可能性がある。トランプ氏の判断次第では、開発阻止を名目とした実質的な妥協を図ることも考えられる。
米朝が核凍結で合意した場合、日本全土や在日米軍基地を射程に収めるミサイルの脅威が温存されることになる。さらに、演習縮小に伴う米韓同盟の弱体化も予想される。日本は台湾有事に備えた防衛費増額など、多面的なリスクに直面することになる。
日本人拉致問題が後回しにされる可能性もあり、高市早苗首相には、米朝交渉の進展を見据え、拉致問題をどう交渉に組み込むかという難しい外交判断が求められる。
文/五味洋治 内外タイムス






