中国の深刻な女性不足が生む結婚詐欺の闇(後編)ベトナムやミャンマーの“偽花嫁”を使い回す詐欺グループ
中国の結婚には伝統的に高額な結納金が必要となる一方、特に地方においては深刻な女性不足が発生している。前回は、こうした社会的なひずみが生み出した結婚詐欺を紹介した。
後編となる今回は、中国でまん延する結婚詐欺が国際的な組織犯罪へと発展している実例をお伝えする。
中国の深刻な女性不足が生む結婚詐欺の闇(前編)高額な結納金を山分けして消えた花嫁
国際結婚相談所の裏に潜む密航組織
「わずか十数万元で、ベトナムやミャンマーの優しい花嫁をめとりませんか?」
中国のネットにはこうした国際的な結婚相談所の広告があふれている。しかし、結婚難に悩む独身男性の目を引く誘い文句の裏にあったのは、密航と結婚詐欺を融合させた、国際的な犯罪チェーンだった。
事の始まりは、ある広告がネットに多く流布しているのを公安が察知したことだった。ターゲットを独身男性に絞り、「東南アジアの美女を入国させ、結婚して子どもを産ませる」と執ようにアピールする売り文句に、組織的犯罪の疑いがあると判断した公安は、捜査を開始した。
捜査を進めると、それには巨大な国際犯罪組織が関わっていることが判明する。主犯格は2023年から蛇頭(不法入国をあっせんする国際的ブローカー)と契約を交わしていた。
彼はミャンマーやベトナムの蛇頭と手を結び、組織的に女性たちを不法入国させていた。その手口は国ごとに使い分けられており、例えばミャンマー人は国境から密入国させ、ベトナム人はビザを不正取得させていた。
女性たちがひとたび中国国内に入ると、警察の目を盗んでグループが運営する隠れ家へと移送・隠匿。ターゲットとなる男性とのお見合いが成功すると、グループは男性側から数十万元を仲介料・結納金として徴収した。
しかし、新妻となった外国人女性たちは数日間だけ同居して男性を安心させたのち、隙を見て逃亡。男性側には、ばく大な借金と空っぽの家だけが残される仕組みだった。
交通事故が暴いた内紛
捜査を開始した公安だったが、一時は手がかりが途絶え、捜査は難航を極めた。しかし、2025年6月20日、湖南省で起きた奇妙な交通事故が、事件を急展開させた。
この交通事故では、ドライバーの父親が負傷しているにもかかわらず、ドライバーは救護もせず、取りつかれたように事故の相手を追跡していたのだ。さらに不審なことに、現場検証を行う警察に対し、事故の当事者双方が警察の介入を拒否し、示談にしたいと主張した。
現場の異様な空気を察した警察は、ドライバーが背を向けながら、スマホの画面を狂ったように操作して何かを消去しているのを見逃さなかった。警察官が即座に制止し、スマホの中身を確かめると、そこには大量の外国人女性の写真や、偽造された契約書のデータが残されていた。
国際結婚詐欺の疑いありとしてドライバーを追及したところ、事故のあきれた真相が判明した。実は、この事故は詐欺グループ内の内紛だったのだ。このドライバーは詐欺の主犯であり、彼はミャンマー人女性を地元の男性に紹介したが、女性は数日同居しただけで逃亡を企て、自分で手配した車両に乗り込んだ。
主犯はまだ仲介料の半分しか回収できておらず、このまま逃げられては自分の取り分が無くなると焦るあまり、強引に女性の乗った車両を追跡し、結果的に自分の父親を巻き込む事故を起こしてしまったのだ。
他省へ逃亡し、新たな結婚詐欺スタート
スマホの通信記録をさらに調査すると、この詐欺の悪質さが浮き彫りになった。逃げ出したミャンマー人女性は、中国国内に潜伏している別のミャンマー人グループと連絡を取り合っており、仲間は次のターゲットとなる男性へ彼女を送り届ける手配をしていた。
さらに、同日には別のミャンマー人女性が他省への逃亡に成功、新たな結婚詐欺をスタートさせていたのだ。公安はすぐさま現地当局と連携し、逃亡したミャンマー人女性らを現地で一斉に逮捕した。
「従順で優しい妻」という幻想の裏側で回っていたのは、国境をまたぎ暗躍する犯罪チェーンだった。主犯が街角で経営していた結婚相談所は、中国・ミャンマー・ベトナムの3カ国を股にかけ、不法入国させた花嫁を複数の地区で使い回し、多くの独身男性を刈り取る犯罪の集積地だったのだ。
現在、拘束された63名の国際結婚詐欺グループはすべて検察機関へ送致され、法廷での裁きを待っている。
文/下川英馬 内外タイムス






