#31 村井友秀「脅威はどこから来るのか」

脅威はどこから来るのか 東京国際大学特任教授 村井友秀
全ての国は隣国を攻撃することが出来る。しかし、現在の世界で隣国を越えて大規模な兵力を投入できる国は米国だけである。したがって、日本を攻撃する可能性がある国は、米国と隣国(ロシア、中国、北朝鮮、韓国)になる。
「脅威対抗理論」によると、脅威は4つの要素で構成される。①侵略を可能にする軍事力、②侵略する意志、③侵略国の規模、④侵略国の近接性―である。また、意志には現状を変更しようとする意志と、現状を維持しようとする意志がある。力で現状を変更しようとする国は危険である。
軍事力を分析すると、米国、ロシア、中国、韓国の軍事力ランキング(GFP)は1位、2位、3位、5位であり、日本の8位よりも上である。北朝鮮は34位であるが、核兵器と弾道弾を保有しており日本にとって脅威である。軍事力を見ると日本の隣国は全て脅威になる。
次に意志を見ると、米国は同盟国であり日本を攻撃する意志はない。プーチン大統領はロシア帝国を復活しようとしており、現在のロシアが失ったロシア帝国の西部を取り戻そうとしている。
他方、ロシア帝国の東部ではロシアが失った領土はない。したがって、ロシアの西部ではロシアは現状変更国であるが、東部では現状維持国である。同様に習近平主席も中華帝国を復活しようとしている。19世紀の中華帝国と比較すると、現在の中国が失った領土は西部ではなく東部である。
したがって、中国の西方にある国にとって中国は現状維持国であり、東方にある国とっては現状変更国である。中国は日本から尖閣諸島を奪おうとしている危険な現状変更国である。
現在の北朝鮮政府の最優先事項は政権維持である。朝鮮半島が統一されれば、北朝鮮政府は消滅する。北朝鮮政府が生き残るためには朝鮮半島が分裂している現状を維持しなければならない。他方、韓国の国民の最優先事項は経済発展である。破産した北朝鮮を抱え込めば確実に韓国の生活水準は低下する。韓国国民の本音は朝鮮半島の現状維持である。
以上の条件を勘案すると、現在日本の脅威になるのは中国である。
百年前の日本の軍事指導者であった山県有朋は、「今、清国は欧米列強の侵略によって分裂し混乱している。故にロシア帝国が一番の脅威であるが、清国が一旦統一し近代化した暁にはロシアに勝る脅威になる」と述べていた。ロシアと中国に近接する日本の地理的位置を勘案すれば、百年前も現在も百年後も、日本に対する軍事的脅威は中国とロシアから来るだろう。
むらい・ともひで 1949年生まれ。1978年東京大学大学院社会学研究科国際関係論博士課程退学。米国ワシントン大学国際問題研究所研究員を経て、防衛大学校国際関係学科教授。2015年退官後現職。日本防衛学会名誉会長。主な著書に『失敗の本質』『中国をめぐる安全保障』『戦略の本質』『戦略論大系7毛沢東』『現代の国際安全保障 安全保障学のフロンティア』『日中危機の本質』等多数がある。平和安全保障研究所奨学プログラム2期生、平和・安全保障研究所監事・研究委員。



