#2 德地秀士「ロシアのウクライナ侵攻から日本の安全保障を考える」

ロシアのウクライナ侵攻から日本の安全保障を考える 德地秀士
ロシアのウクライナ侵攻は、1990年のイラクによるクウェート侵攻以降長い間なかったあからさまな侵略行為である。しかも、ロシアは国連安保理の常任理事国であり、本来、国際秩序の主要な担い手の1つである。
西側のウクライナ支援が止まれば、ロシアの勝利という形で直ちにこの戦争は終わるかもしれないが、それは、悪いことをした国が得をするということを意味する。そうならないよう、国際社会には長期間ウクライナを支援する覚悟が必要である。
ロシアは資源大国でもあり、制裁を受け続けても長期戦にたえられると見られるが、苦しい状況にあることは間違いなく、中国や北朝鮮との連携を深めている。中国、北朝鮮はロシアのウクライナ侵攻を支援している。また、中露は日本の周りで活発に共同して軍事活動を行い、日本を威嚇している。ロシアは国連安保理決議に違反して北朝鮮を軍事技術開発等で支援している。包括的戦略パートナーシップ協定の締結もその一環である。中・露・北朝鮮は反米という点で一致しており、西側との対決姿勢を強めている。
日本は、地理的にこうした対立の最前線にある。この三国と隣り合わせで、かつ、朝鮮半島や台湾海峡といった「発火点」と至近距離にある。「我が家は戸締まりをしないことになっているから安全だ」などと言っていられないのは明らかだ。「軍事力は家を壊す鍵である」と言い「軍隊からの安全」を主張する人もいるだろうが、それは、確立した民主体制における適切な問題意識ではない。
ロシアとウクライナは話し合いをしないからあんなことになったという人もいるが、何をどう話し合えばよかったというのか。NATO(北大西洋条約機構)の東方拡大のことを念頭にそう言っているのなら、何が旧ソ連圏諸国のNATO加盟をもたらしたか考えてみるべきだ。ロシアのウクライナ侵攻後、フィンランドとスウェーデンのNATO加盟をもたらしたものは一体何だったと言うのだろう。また、仮にNATOの東方拡大がロシアの決断の背景にあったとしても、それはロシアの侵略戦争を正当化できるものではない。それこそ紛争の平和的解決の原則に反する。
ウクライナの例からも明らかなとおり、自助努力は他国による支援の前提である。軍事力だけでは国の安全は図れないが、それは、軍事力では国の安全は図れないということとは全く異なる。冷静に現実を直視すべきである。
とくち・ひでし 1955年生まれ。東京大学法学部卒業、タフツ大学法律外交大学院(フレッチャースクール)卒業(修士)。防衛庁入庁。防衛省運用企画局長、同人事教育局長、同経理装備局長、同防衛政策局長、初代防衛審議官を経て2015年防衛省退職。2021年現職。中曽根平和研究所研究顧問。著書に『専制国家の脅威と日本』(共著2023年、勁草書房)『防衛外交とは何か』(共著2021年 勁草書房)、『気象安全保障:地球温暖化と自由で開かれたインド太平洋』(共著、2021年(東海教育研究所)等がある。



