世界の常識と日本憲法 村井友秀

東京国際大学特命教授 村井友秀

 21世紀の世界は、帝国主義の19世紀、世界大戦の20世紀から進歩したが、基本的に力が支配する無政府的世界である。大国による国際法を無視する動きも目立っている。

 敗戦ショックの中で生まれた日本憲法の前文は次のようになっている。「日本国民は、平和を愛する諸国民の公正と信義を信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した。いずれの国家も、自国のことのみに専念して他国を無視してはならないのであって、この法則に従うことは、自国の主権を維持し、他国と対等関係に立とうとする各国の責務であると信ずる。日本国民は、国家の名誉にかけて、全力をあげて崇高な理想と目的を達成することを誓う。」

 憲法前文にある「平和を愛する諸国民の公正と信義を信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した」という発想は、国連が戦争、内戦、テロ、大量破壊兵器の拡散、国際犯罪が世界の平和を脅かしていると警告する世界の現状を見れば、全く非現実的で「世界の非常識」である。

 文明の進歩を象徴するフランス革命のシンボルであるフランス国歌の歌詞は、「さあ、祖国の子らよ、栄光の日は来た。我らに対し、血まみれの旗が掲げられた、聞こえるか、戦場の残忍な兵士たちの咆哮を、奴らは我らの元に来て、我らの子と妻の喉を搔き切る、武器をとれ、市民たちよ、汚れた敵の血が、我らの畑を満たすまで」というものである。フランスの小学校ではこの歌を歌うことが義務になっている。

 政府には国民、領土、主権を守る義務と責任がある。中国の習近平主席は「如何なる外部勢力も中国に危害を加えようとすれば、14億人を超える中国人民が血と肉で築いた万里の長城に頭をぶつけ血を流すことになる」(2021年7月1日)と演説した。また、米国のバイデン大統領は、米軍兵士13人を殺害した過激派組織に対して「米国は絶対に許さず、絶対に忘れず、何処までも追い詰め、必ず代償を払わせる」(2021年8月26日)との声明を出し、翌日に過激派組織の幹部を殺害した。これが「世界の常識」である。

 日本の憲法前文には、「われらは、いずれの国家も、自国のことのみに専念して他国を無視してはならないのであって、日本国民は、国家の名誉にかけて、全力をあげて崇高な理想と目的を達成することを誓う」と書いてある。これが日本の進むべき道ならば、日本国民は「崇高な理想と目的」を達成するために必要な力と覚悟を持たなければならない。

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