勝股秀通 「新政権」が「応える課題」

「新政権」が「応える課題」 日本大学特任教授 勝股秀通
 東アジアの秩序が今、大きく揺らぎはじめている。中国海警局は2月1日、日本の領海内で沖縄県の尖閣諸島を撮影した映像を初公開した。昨年、軍艦並みの76㍉機関砲などを搭載した同局の武装船が、尖閣周辺の接続水域内を航行した日数は、過去最多の357日に達し、中国は映像によって虚偽の領有権主張を可視化させ、武力を使ってでも日本の領土を奪取しようとする意図を明確にしたと言っていい。
 中国の軍事的威嚇はこれにとどまらない。昨年末には、沖縄・南西諸島の領海近くで空母艦載機の発着艦訓練を強行し、警戒監視にあたる自衛隊機に対し、中国軍の戦闘機が危険な敵対行動である火器管制レーダーを照射した。その数日後には、首都東京に照準を合わせるように、核ミサイルを搭載できる戦略爆撃機を紀伊半島沖まで飛行させている。
 こうした相次ぐ威嚇に対し、国内では「台湾有事を巡る首相答弁が発端」などと冷ややかに受け止める向きがある。だが、端緒がそうであったとしても、非常識な軍事的威嚇や虚偽の領有権主張を、このまま常態化させてはならない。しかも中国は「日本も核兵器を保有すべきだと思う」という官邸幹部の発言を情報戦に利用し、国連の場で「軍国主義の復活」などと日本を糾弾しているほか、中国外交部は会見で「日本の右翼の核保有への野心は、世界の平和と安定にとって深刻な脅威」などと対日非難を強めている。
 日中関係にとって危機的ともいえる状況下で、きょう8日、衆議院選挙は投開票日を迎えた。本来であれば、繰り返される軍事的な威嚇に加え、核兵器など軍備増強を続ける中国とどう向き合っていくのか――が主要な争点であり、論点でもあったはずだ。
 だが、各党が選挙戦を通じて訴えの柱に据えたのは、消費税の減税と廃止といった内向きの主張ばかりだった。物価高に直面する全国の有権者にとって切実なテーマであったとはいえ、「国の守り」について、すべての国民が自分の問題として考える好機でもあったと思うと残念でならない。
 日本は戦後、米国主導の国際秩序の下で平和と繁栄を享受してきた。しかし、トランプ米政権は、国家安全保障戦略で「米国が世界秩序全体を支える時代は終わった」と宣言、南北アメリカ大陸を中心とする西半球を重視する方針を打ち出している。
 米国のアジアへの関与に不安があるからこそ、新政権は国民の負託に応えるため、現下の厳しい安全保障環境と防衛力強化の必要性を丁寧に説明し、抑止力としての米国を東アジア、そしてインド太平洋につなぎ留めておく手立てを尽くさなければならない。

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