過去の遺恨をアートで越える 手描き墨絵師・荒川颼が参画する「心の終戦」とは
手だけで墨絵を描く独創的な技法で、世界を舞台に活動するアーティストの荒川颼(しゅう)氏が歴史のわだかまりをアートで乗り越える平和活動「心の終戦」プロジェクトに参画する。10月、11月に東京都品川区の春雨寺ホールで平和への祈りを込めたライブパフォーマンスや個展を開催。さらに、来年5月にはハワイの真珠湾(パールハーバー)での現地実演も決定した。世界から注目を集めるこの「心の終戦」とは、一体どのような取り組みなのだろうか。
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これまでの歴史や、かつての立場を乗り越え
今年5月にハワイの真珠湾での平和記念式典を機に正式発足した「心の終戦」プロジェクトは、これまでの歴史やかつての立場を乗り越えて、真の和解を目指す温かくも力強い取り組みだ。
メンバーには、東條英機元首相のひ孫である東條英利氏、米国のハリー・トルーマン元大統領の孫であるクリフトン・トルーマン・ダニエル氏をはじめ、元内閣総理大臣・安倍晋三氏の夫人である安倍昭恵氏など、歴史的背景を持つ著名な子孫たちが参画。加えて、東京2020パラリンピック開会式で国歌独唱を務めた全盲のシンガー・ソングライター、佐藤ひらり氏も名を連ね、芸術や音楽の力を結集して平和な世界を築くために活動を広げている。

プロジェクトの原点は広島で被爆し12歳で亡くなった佐々木禎子さんの「折り鶴」にまつわる日米のきずなだ。発端は2012年。トルーマン大統領の孫・クリフトン氏の仲介で真珠湾へ折り鶴が寄贈されて以来、安倍首相夫妻らが折った約3000羽の鶴が届けられるなど和解の歴史が積み重ねられてきた。
この歩みが結実し、今年5月24日にハワイの真珠湾で執り行われた式典では、福岡県八女市で守られてきた「原爆の残り火(平和の火)」を日米関係者が一斉に吹き消すことで、憎しみの連鎖を断ち切る象徴的な儀式が行われた。続く8月には東京・品川の春雨寺ホールで、その現地報告会が催され、本格始動した。
このプロジェクトが目指す「心の終戦」とは、単に武器を置くだけではなく、人間の心の中にある憎しみやわだかまりをなくし、互いを許し合って心の中の争いを終わらせることを意味している。
筆を捨て「手」で命を吹き込む、唯一無二の表現者
この崇高な理念にアートの力で寄り添うのが荒川颼氏だ。伝統的な墨絵の枠を飛び越え、筆を一切使わずに自らの「手のひら」や「指先」だけで描き上げる独自の技法「手描き墨絵」を確立した気鋭のアーティストである。
指先に魂を込め、圧倒的な躍動感を和紙に閉じ込めるその作品群は世界的な評価を獲得。これまでに国連ユネスコ・パリ本部での展示をはじめ、レオナルド・ダ・ヴィンチ終えんの地であるフランスのクロリュセ城やスペインの世界遺産サン・パウ病院への作品展示。さらにイタリアやタイ、モンゴルなどでも高い評価を受けている。
「世界の国々を回っていると、どうしても歴史の遺恨を感じることがあります。宗教や民族による争いはすべて人間のエゴ。それを和らげる力を芸術や音楽は持っていますし、人々の心を癒やすことこそが私たちアーティストの役割です。東條氏やトルーマン氏、あるいは昭恵氏らが歴史のわだかまりを越えて手を取り合う姿に、深く魂を揺さぶられました。目指すベクトルは一緒」と荒川氏は語る。

10月ライブ、11月個展、さらに来年5月ハワイ真珠湾へ
会場となるのは品川の春雨寺ホール。春雨寺の丹羽貴大住職と荒川氏との深いきずながベースにあり、今後は八女市から採火した平和の火を灯すとともに、禎子さんが生前に折った折り鶴の展示も予定されている。
10月25日のイベントに向け、荒川氏自身も「本当の終戦とは、私たちの心の中にある憎しみを手放し、互いを許し合って心の中の争いを終わらせることです。言葉だけでは埋められない人々の心の溝やわだかまりを墨絵アートで少しでも癒やせれば」と熱い想いを明かす。
当日は佐々木さんが祈り続けた「平和の折り鶴」をテーマに、未来への希望を乗せて「鶴がまさに大空へと飛び立つシーン」をライブパフォーマンスで実演。続いて、11月20日〜23日の4日間も、同じく春雨寺ホールにて「心の終戦」への願いを作品に込めた「荒川颼個展」を開催する。
さらに来年5月にはメンバー一同でハワイの真珠湾に渡り、現地でもライブパフォーマンスを執り行う予定だ。
現在もウクライナや中東情勢など、世界各地で悲しい分断や紛争が絶えない緊迫した日々が続いている。混迷を極める現代だからこそ、歴史の遺恨を乗り越えてわだかまりをなくそうとする「心の終戦」の持つ意義は大きくて重い。
「一人ひとりの心が豊かになれば、きっと世の中の争いごとは減る。芸術ならそれができる」と荒川氏。彼らの試みは過去の痛みを未来への希望へと変える、優しくも力強い一歩となりそうだ。
文/山本智行 内外タイムス






