温情をかけられた60代経理部長、再び横領 5000万円をキャバクラに「王様になった気分」【裁判傍聴記】
「1度目は温情をかけて、2度も横領されてしまった。さすがの私も、今回は許すわけにはいかない」
男性被告が勤務していた会社の代表取締役は、捜査当局にこう嘆いたという。
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マンション大規模修繕などを手掛ける会社の経理部長だった男性被告(66)は2度にわたり、多額横領を犯した。最初は2015年。現金1200万円を着服していたことが社内で発覚した。だが会社の代表は「大学生の子どもがいて、首にするのはかわいそう」と考えて警察には届け出ず、被告を雇用し続けた。
しかし、起訴状によると被告は2019年11月から20年2月にかけて、17回にわたり虚偽の小切手を金融機関に提示して約2390万円の支払いを受け、全額を着服横領していた。
横浜地裁で開かれた公判で、業務上横領罪に問われた被告は起訴分の「1年くらい前から」同様の方法で自己使用の目的で小切手を換金していたことを認めた。総額は「4、5000万円だと思います」。一度は会社に見逃してもらいながら、そのわずか3、4年ほどで“再犯”した形だ。
「裸の王様」になった男 満たされなかった自信と承認欲求
使途は、キャバクラ通いだった。
弁護人「全てをキャバクラで使ったんですか」
被告「そうです」
弁護人「普通そこまでキャバクラに通うかな、と思うのですが…隠し預金とかはありますか」
被告「ないです」
弁護人「今残っているものは」
被告「何もないです」
そこまでキャバクラに入れ込んでしまった理由について、被告は次のように語った。
「高校受験、大学受験に失敗しまして、自信がなくなっていて、両親の介護とかもありましてボヤボヤしていたのですが、(キャバクラでは)ちやほやされて王様になった気分で…まあ裸の王様だったのですけど…嫌なことを一瞬でも忘れられた。そこから抜け出せなくなった」
弁護人に「受験失敗は、だいぶ昔の話ですけど…」と突っ込まれると、「よく言う“負け組”という思いはありました」と答えた。公判では話題にのぼらなかったが、捜査当局の調べにはキャバクラに“お目当ての女性”がいたことを明かしている。
その風采からは、夜の街で遊びほうけるようにはとても思えないが、他人からはうかがい知れぬ劣等感の闇は深い…ということなのだろうか。
1度目の温情が残した信頼 会社はなぜ再び男を信じたのか
結婚して子どもは2人。1度目の横領については社内処理にとどまったこともあり、家族には伝えなかった。2度目の横領が発覚したことで、離婚に至った。それ以前から妻とは関係がうまくいっていなかったようで、キャバクラ通いの背景として「妻との関係で、あまり家に帰りたくなくなっていたのも事実」と漏らした。離婚後は、子どもたちとの交流も一切なくなった。
大学を卒業後、海外にも展開する大手企業で経理を担当していた経歴から、経験と能力を買われて2007年に経理部長として採用された。最初の横領発覚後、会社側は被告に現金の取り扱いは直接させず、口座管理と小切手の振り出し業務のみを担当させることとした。しかも給与水準を少し上げて、その上乗せ分を会社への返済に回すという配慮までして、2年ほどで被害額を完済させた。
そもそも1000万円超の横領をされてもなお解雇せず、経理担当を続けさせたことからして、会社側はこの被告を相当程度、信頼していたことがうかがえる。架空の小切手を振り出せばすぐにバレそうなものだが、被告に任せすぎてチェックが遅れた側面があるのは否めないだろう。
2度目の横領は20年3月に発覚。代表が口座を確認して資金が足りないことに気づき、被告に問い合わせしたら一時連絡が取れなくなったという。ちょうど新型コロナの世界的流行でWHO(世界保健機関)が「パンデミック」を表明した時期と重なった。代表によると「一時は会社の経営自体が行き詰まった」というほどの損害を与えた。
検察官「なぜここまで、横領を続けてしまったのでしょうか」
被告「意志が弱かったのもありますし…うまく言えないけど…意志が弱かった」
22年から別の仕事に就いて毎月少しずつ返済を始めたほか、生命保険を解約したり車を譲渡したりして弁済をしている。ただ、今年8月の公判時点で返済できた額は約170万円に過ぎない。
裁判官「恩をかけてもらった人の信頼を裏切った。今、社長に対してどう思っていますか」
被告「2回も裏切って、申し訳ない気持ち…一生かけてでも償いたいと思っています」
横浜地裁は、仕事も家庭も信頼も失った男に懲役3年6月(求刑・同4年)の実刑判決を言い渡した。
文/篠田哉 内外タイムス






