構成員1500人、年間収益44億円超の巨大組織「ナチュラル」とはほど遠い…ある風俗スカウトマンが生きた“牧歌時代”
全国に1500人以上。2022年の1年間で、約44億5000万円の違法収益を得ていたとされる。
当事者に聞く「売春防止法改正は本当に風俗嬢を救うのか、セックスワーカーは搾取される被害者なのか」
26年1月、国内最大級のスカウトグループ「ナチュラル」のトップ、小畑寛昭被告が鹿児島・奄美大島で身柄を確保され、その後逮捕された。女性を性風俗店に紹介して得る「スカウトバック」が主な収益源だったとされる。同年5月の東京地裁初公判で、小畑被告は職業安定法違反の起訴内容を認めた。
その姿は、筆者が約10年前に話を聞いていた一人のスカウトとは大きく違う。
「ずっとスカウトをやっていた人間に、他の仕事なんてできるわけないでしょ」
10年代半ば、東京・中野の居酒屋で男は投げやりにそう話した。短髪にフェードを入れた強面だが、話すと物腰は柔らかい。
若い頃、先輩に誘われてスカウトを始め、路上で摘発された後はSNSを主な活動の場にしていたという。
女性探しからメンタルケアまで一人で
男も組織には所属していたが、現場では「個人商店」に近かった。
交流サイト(SNS)で女性に声を掛け、希望収入を聞く。容姿や顔出しの可否を確認し、条件に合う店を探す。最低保証や女性の取り分、出勤日数などの交渉も自分で行った。
ただし、当時から女性の集め方の主流がスカウトだったわけではない。男によれば、性風俗店で働く女性の多くは自ら店を探して応募しており、スカウト経由はその一部だったという。
スカウトが力を発揮したのは、地方への「出稼ぎ」だった。紹介先は東北、北陸、四国などが多い。地元では女性を集めにくい店もあり、首都圏で思うように稼げない女性を最低保証付きで送り出していた。
女性が働けば、ばらつきがあるものの、ならせば売り上げのおおむね1割が紹介料としてスカウト側に入り、その半分ほどを所属組織に納めていたという。紹介して終わりではない。担当は常時数十人。突然連絡を遮断されたり、出稼ぎ先から姿を消したりする女性もいた。店から苦情が入ることもあれば、精神的に不安定になった女性を一晩中なだめることもあった。
収入には波があったが、高級ブランド品など値段を気にせず買えるほどには稼いでいた。それでも仕事への嫌気を隠さず、「穏やかに暮らしたい」と何度も話した。自らの仕事を「女衒(ぜげん)」と呼んだこともあった。
もちろん、当時も無規制ではない。東京都では05年から性風俗店へのスカウト行為などを規制し、12年には指定繁華街でスカウト目的に女性を待つ行為も対象とした。性風俗店などへの違法な職業紹介も以前から禁じられていた。
巨大組織の資金源へ
その後、警察当局の捜査で巨大スカウトグループの実態が明らかになる。20年には東京・歌舞伎町で、スカウトグループと暴力団組員らが乱闘する事件が起きた。
大規模グループでは、構成員の管理や店との契約、連絡用アプリの開発などを担う要員まで置かれていた。かつて男が自分で担っていた仕事が、巨大組織の中では細かく分業されていた。
約10年前、男が語った紹介料は売り上げのおおむね1割。一方、ナチュラルをめぐる初公判では、検察側が女性の給料のおよそ20%をスカウトバックとして受け取る契約を結んでいたと指摘した。単純比較はできないが、同じ仕組みが巨大組織の主要な資金源になっていた。
25年6月施行の改正風営法では、性風俗店がスカウトらに紹介料を支払う行為そのものも禁止された。店側からスカウトへ流れる金にも直接、網が掛かった形だ。
コロナ禍が明けたころ、久しぶりに電話をかけると、その番号が使われていないことを告げる自動音声が流れた。
今、何をしているのかは分からない。
10年代半ばに巨大組織が存在しなかったわけではない。ナチュラルも09年ごろから規模を拡大していたと検察側は指摘している。
ただ、少なくとも筆者が接した男は、自ら女性を探し、店と条件を交渉し、その後の面倒まで引き受けていた。
それから約10年。同じ商売の仕組みを基礎に、1500人規模の人間を抱え、年間44億円を超える金を得る巨大組織が現れた。
振り返れば、少なくとも筆者が目にしたスカウトの世界は、現在の巨大組織と比べれば、まだ「牧歌的」だったのかもしれない。
文/畑中雄也 内外タイムス






