日本のホテル客室から無断使用Wi-Fiで詐欺メールを大量送信 背後に潜む「中国直輸入」の犯罪システム
15日、神戸市内のホテルの客室にPCを隠し、無断で使用したWi-Fiを通じて詐欺メールを大量送信したとして、中国籍の男が偽計業務妨害容疑で逮捕されたという報道があった。
実はこうした手法は、中国において今なお広く使われている典型的な手口である。筆者は、今回の摘発事例も中国国内で培われたノウハウが日本に持ち込まれたものと見ている。
本稿では、中国で実際に行われている、ホテルの客室に通信機器を不法に設置し、詐欺電話やSMSをばらまく手口を紹介したい。
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ホテルをう回させる電信詐欺の手口
これまでもお伝えしてきた通り、中国では数多くの電信詐欺が横行している。
警察による摘発が続いているにもかかわらず、こうした犯罪が根絶されない背景には、まさにホテルのような公共空間に設置された「GOIPデバイス」の悪用がある。
GOIP(GSM Over IP)デバイスとは、携帯電話回線とインターネット回線を中継する通信機器のことだ。
本体に数十枚から数百枚のSIMカードを挿入した上で、ホテルWi-Fiなどのネットワークに接続する。これにより、外部のパソコンからリモート操作で、挿入されたSIMカードの電話番号を使った発着信が可能となる。
通話自体は中国国内の番号から発信されるため、被害者からは「国内からの着信」に見え、警戒心が薄れてしまう。国外から発信する場合に比べて着信成功率が高く、発信元の位置特定も困難になることから、詐欺グループの間で広く重宝されているのだ。
中国で実際に起きた例として、2026年7月29日、湖南省の警察当局が摘発した事件がある。この事件は、機材の設置から報酬の受け取りに至るまでの典型的な事例だ。
1. 拠点構築とリモート偽装
犯罪グループは現地の宿泊施設にGOIPデバイスを設置した。そして、海外の仲間はGOIPを経由させることで、海外からの発信信号を国内の電話番号へと偽装し、受信者の警戒心をすり抜けていた。
2. ロマンス詐欺への誘導
グループは「婚活・マッチング」を装ったSMSを1日およそ1000件ペースで送信。返信や添付リンクのクリックを促し、海外の詐欺グループへターゲットを流し込んでいた。
3. 暗号資産による報酬受け取り
国外の詐欺組織は、送信成功1件につき0.5元の報酬を暗号資産で送金。国境を越えた送金履歴を隠ぺいし、警察の追跡を逃れる仕組みを整えていた。
警察の捜査により、実行犯4人が拘束され、20台以上の端末や30枚超のSIMカード、GOIP機器一式が押収されて組織は壊滅した。
この事件が示す本質は「現場の作業員は機材を置き、実働部隊は国外に潜伏する」という国際詐欺犯罪の分業モデルである。日本で摘発されたホテルの事例も、まさにこの犯罪チェーンが中国国外へ拡張された一端といえる。
病院の固定電話も標的「固定回線ハイジャック」の手口
また、こうしたGOIPを悪用した事例と並び、中国で大きな脅威となっているのが「固定電話回線のハイジャック」である。2026年3月に山西省公安局が摘発した事件は、その狡猾(こうかつ)さを象徴している。
1. 医療機関への不正侵入
実行犯グループは複数の病院を標的に選定。下見を重ねた上で、病院内の配線盤が集約された設備室に侵入、中継機器を固定電話回線に割り込ませていた。
2. 固定電話番号への偽装
中継機器を経由させることで、海外の詐欺グループからの発信信号を現地の病院の番号へと偽装。社会的信用が高い公的機関の番号を表示させることで、被害者の警戒心を無力化していた。
3.複数拠点への転売
海外からのリモート通話は、少なくとも300件以上の詐欺通話に悪用された。通信キャリアの検知と警察の追跡によって4人が逮捕・検挙された。

ホテル客室のWi-Fiを悪用した日本の事例と同様に、中国では管理の死角になりやすい公共スペースに機材を潜り込ませ、現地のインフラを悪用する手口が高度にマニュアル化されている。
病院の固定回線すらターゲットにするこの手口の広がりは、日本国内においても決して対岸の火事ではない。
東南アジアなどの詐欺拠点へ渡航、現地でかけ子や指示役として加担する日本人の存在が問題視されて久しい。しかし、今回のホテルWi-Fi悪用事件が示すのは、そうした海外へ行く側だけでなく、日本国内で機材の設置や通信回線の提供といった犯罪インフラの構築を助長・代行する側もまた、広がっていく危険性である。
「端末を置くだけ」「指定のWi-Fiにつなぐだけ」といった闇バイト感覚で国内の拠点が量産されれば、海外の詐欺グループは日本の通信網を安易に使うことが可能となる。通信事業者やホテルはもとより、社会全体がこの脅威を認識し、対策と警戒を強める必要がある。
文/下川英馬 内外タイムス






