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当事者に聞く「売春防止法改正は本当に風俗嬢を救うのか、セックスワーカーは搾取される被害者なのか」 

1956年の売春防止法制定から70年。今年3月から法務省の有識者検討会で議論が始まり、不均衡を是正するとして「買う側」の処罰が争点となっている。内容については各メディアでも取り上げられているため割愛するが、買う側を処罰するとしたフランスや北欧ではセックスワーカーがさらに危険にさらされているという状況に陥っている。

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また、セックスワーカー不在のまま進む議論は、AVよりもさらに権利関係のあいまいな同人AVを活発化させ、AV業界の女性をさらに困窮させるだけに終わった2022年のAV新法の成立を想起させる。さまざまな事情から声を上げられない当事者たちは議論をどう見ているのか。性風俗業界で働く2人に話を聞いた。

「正直に言えば腹が立ちますよね、私たちには保護が必要と決めつけて。一応大人なんですけどね」

東北地方のデリヘルに勤務するAさん(33歳)は売春防止法改正で買春の処罰が議論されていることについて、苦笑いしながら答えた。

買春する側を処罰する「北欧モデル」の導入を求める声が一部で高まっている。メディアはそれを「女性を搾取から守るための正義の法改正」として好意的に報じている。

Aさんは25歳からこの仕事を続け、中にはホストに引っ掛かりだまされて働いているのではないか?と思うような女性もいたことは認める。「でもそれって、今の法律でも処理できることですよね」と言い、買春を処罰することで解決する問題ではないだろうとあきれる。

一部のメディアは過剰に被害者像を演出

メディアや一部のNPOではセックスワーカーが搾取される被害者としての姿を強調し過ぎているようにAさんの目には映る。ただ、Aさん自体は仕事について自身が介護職の仕事と兼ねているためか「仕事は介護のようなものだと思っています。じゃあ介護職は搾取されている仕事になるのでしょうか」と話す。

買春の処罰化でAさんが危惧しているのは、彼女たちの生活を支える「無害な客」を現場から排除し、コロナ禍の時のような「危険な客」ばかりになることだ。

コロナ前、店を訪れる顧客の大多数は、理不尽な要求をしない、店のルール内で遊ぶ紳士的で「無害な」一般人だった。性病を持っている客や言動がおかしい客は即出禁にできた。ところが、新型コロナで緊急事態宣言や自粛ムードになると、無害な客は感染を恐れて一気に消滅。収入が著しく落ち込んだところに、来店したのは普段であれば出禁にするような客層ばかりだった。

「本番強要は当たり前。こちらの足元を見て、信じられないような安値で値切ってくる人。そして、何をしても警察には駆け込めないだろうとタカをくくって、平気で暴力を振るう人。まともなお客さんがいなくなりましたね」と振り返る。

当時のリスクは感染だったが、買春の処罰化が、この当時の状況を今度は法律の力で強制的に作り出すことは容易に想像ができる。家庭や仕事を持つがゆえに無茶苦茶なことはしない安全な顧客が無用なトラブルを恐れて去った世界で待っているのは、彼女たちの身の危険だけだろう。

性的搾取を行う客を処罰すれば女性が救われるという幻想

先に紹介したAさんは売春防止法の枠外である非本番風俗だったので、影響は出るだろうが店舗側から守ってもらえる可能性がある。次に紹介するBさん(24歳)はいわゆる「立ちんぼ」を行い、売春防止法で逮捕された経歴があり、現在も時折交流サイト(SNS)などで個人売春を行っているという。

Bさんが言うには、売春防止法で逮捕されてもすぐ釈放されるという。確かにニュースで個人が売春をして起訴されて有罪になったという話は聞いたことがない。

そんなBさんにどういう客が多かったか尋ねると「風俗だとすぐ出禁になるようなのばかり」と吐き捨てた。Bさんによると、立ちんぼを買う客は少しでも安く遊びたいから立ちんぼを買う訳で、基本「ヤバいのしかいない」(Bさん)。それでもまれに何度も通うような客もいて、そういう客は大体、家庭や仕事を持っているのだという。

「生活のためにやっているけど、そういう人たちがいなくなったら、さすがにもうやっていられないかな」とBさんは言う。

「性的搾取を行う客を罰すれば女性が救われる」というロジックは、上記の通り完全に破綻しているように見える。皮肉にも、政治や支援団体などが進める「保護」は、過酷な環境にいる女性たちをさらに危険な奈落へと突き落とす引き金になり得る。

こうした懸念は、決して被害妄想ではない。すでに買春の処罰化を進めた国々がその失敗を証明している。

買う側を罰するというモデルの代表格が、1999年にスウェーデンが導入した「北欧モデル」だ。導入当初、この制度は「性搾取を根絶する先進的な取り組み」として世界中から絶賛された。だが、四半世紀が経過した現在、理念からかけ離れた惨状となっている。

当然ながら、北欧モデルの導入後も性売買自体は消滅せず、警察の目を逃れるための徹底的な地下潜行が起きた。

北欧モデルは完全に失敗

国際人権NGOアムネスティ・インターナショナルが、北欧モデルを導入したノルウェー(2016年)やアイルランド(2022年)で行った現地調査レポートによると、女性たちは路頭から消え、人気のない場所へと追いやられ、結果として支援団体や医療機関からもアクセスできない孤立状態に陥った。買い手側の焦りは、事前の安全確認や条件交渉の時間を奪い、セックスワーカーへの暴力発生率はむしろ上昇した。

この失敗を踏まえ、世界保健機関(WHO)や国連合同エイズ計画(UNAIDS)、アムネスティなどは、セックスワークの「完全な非犯罪化」を明確に推奨している。

理由の根底にあるのは、道徳論ではない。当事者たちの健康と安全を守るという現実的な人道主義だ。刑罰による抑圧をなくすことこそが、女性たちの孤立を防ぎ、性感染症の予防や、暴力被害に遭った際の警察への通報を容易にする。これこそが、数々の現場の血のにじむような検証から導き出された現在の最適解となっている。

しかし、日本の法改正の議論において、これら失敗の歴史や国際機関の提言といったデータは、きれいに無視されている。そこにあるのは、売る女性だけを罰するのは不均衡だから買う男性も罰しようという、妄執しかない。当事者不在で議論が行われ、その結果何が起きたかはAV新法がすでに示している。

セックスワークの現場には、確かに貧困や精神的ケアの問題、違法業者の介入といった解決すべき課題が山積している。働く側も買う側も、誰だって現状を最上とは思っていないだろう。ただ、それらの課題を解決するためのアプローチが、なぜ買春の処罰という、最も現場を危険にさらす手段を積極的に支持する層がいるのか甚だ疑問だ。

議論をするのであれば、誰のための、何のための買春処罰なのかを少しは考えてみるべきではないのだろうか。

文/畑中雄也 内外タイムス

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