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中国の人身売買(第3回)人間を「商品」として扱う背景にあった貧困と男児偏重の価値観

この連載では中国における人身売買の実態を解説している。これまでに紹介した26年ぶりに救出された女性や誘拐グループの仲介人のように、2000年代に至るまで中国で誘拐は日常茶飯事の出来事だった。

最終回となる本稿では、当時の中国がどのような様子だったのか、その実態をお伝えする。

中国の人身売買(第1回)失踪女性が26年後に救出…「独身男たちが性行為、連れてきた老人が金を受け取っていた」

白昼堂々と子どもをさらい、乳児の盗難もまん延

かつての中国では、どれほどの人身売買が行われたのか。例えば2001年〜2003年の3年間だけで公安当局が摘発した件数でも20360件に上る。

それでは、なぜこれほど多くの犯罪が起きたのか。背景には、人間そのものが商品となる市場の存在があった。そして、その市場が形成された理由の一つは貧困である。

一部の地域では、貧困や生活苦から、生き延びる糧を得るために子どもを売らざるを得ない状況に追い込まれる家庭があり、これが人身売買組織にとっての供給源の一つとなっていた。

そして人身売買の市場を形成した、もう一つの理由は高額な利益である。伝統的な考え方が根強い地域では、男の子への執着が非常に強く、「家系を絶やさないため」「老後の備え」として男児を求める傾向がある。そうした地域での男児は価値が高かったのである。

当時の人身売買グループには犯罪に対する恐れなどみじんもなかった。白昼堂々と女性や子どもをさらい、時には力ずくで奪い去る。そんな事件が日常茶飯事で、手口は極めて残忍であった。こうした強奪と並行して、乳児の盗難もまん延していた。

路上、保育所、産婦人科の分娩室、果ては一般家庭の家の中にまで魔の手は伸びていた。1988年、四川省のわずか一つの地区だけで、覆面をした男たちが家に押し入り、赤ん坊をさらう事件が4件も起きている。犯人たちは闇に乗じて民家に侵入し、親の見ていない隙に1歳未満の子どもを連れ去った。そうして奪った子どもを数千元で他省へ売り飛ばしたのである。

盗みや強奪だけでなく、詐欺も大胆だった。1986年、四川省で公務員を装った男たちが現れた。「詐欺の捜査に協力してほしい」とだまして21歳の女性を連れ出すと、そのまま内モンゴルへ4500元で売り飛ばしたのだ。

住民の8割が女性の売買に関わった村も

当時の犯罪組織は大規模化していた。当時の「誘拐・売買取り締まり報告書」を読むと、40人から50人、時には100人を超える「大兵団」と呼ばれた組織がいくつも存在していた。

男も女も加担し、誘拐・輸送・販売と分業化され、独自の規律を持つ組織さえあった。こうした組織の構成員は、ならず者だけではなかった。あらゆる社会階層の人間が関わっていたのである。江蘇省では、40人以上のタクシー運転手で構成された組織が、102人の女性を誘拐・売却していた。広西チワン族自治区では、炭鉱の副鉱長が作業員や浮浪者と結託し、17人の女性と子どもを売り飛ばしていた。

さらに恐ろしいことに、当時の警察による取り締まりを前にしても、人身売買グループの勢いは一向に衰えなかった。

1998年9月、広西チワン族自治区では、一人の警察官が人身売買犯に鉄パイプで頭部を猛打され、殉職するという凄惨(せいさん)な事件が起きた。また90年代半ば、安徽省のある村では、住民の8割が女性の売買に関わっていただけでなく、多くが自作の銃を所持していた。彼らは「警察が捕まえに来るなら命がけで抗戦してやる」と公然と言い放っていたのである。

嫁を買うために借金して破産、買った嫁が逃げ出し警察に被害届…

こうした事態を招いた背景には、当時の中国社会において、「嫁を買う」「子どもを買う」という行為が当たり前のこととして受け入れられていた事実がある。

例えば1986年、山東省の某県で「嫁の購入」に投じられた総額は103万元にのぼった。また人口10万人ほどの県では、1982年だけで700人もの女性が買い入れられ、農民たちが支払った対価は合計300万元を超えていた。

当時の物価を考えれば、これは気の遠くなる大金である。当時、商売として大成功を収めていた衣料品店でさえ、年間の利益はわずか1万元程度に過ぎなかった。

こうした時代にあって、誘拐や人身売買をめぐる非現実的としか言いようのない話題は後を絶たなかった。

嫁を買うために借金をして破産する者がいれば、買ってきた嫁が実は女装した男だったと判明しショックのあまり寝込む者もいた。さらには、4000元で買った嫁が逃げ出したからと警察に被害届を出しに行く者や、他人を売り飛ばそうとしている最中に、実は「売られようとしているのは自分自身だった」と気づく者までもが現れたのである。

しかし、こうした不条理な出来事の裏側には、常に悲劇が張り付いていた。虐待と心身の破壊、終わりのない捜索と精神の崩壊に何千、何万という女性や子どもたちが巻き込まれたのだ。

かつての中国で横行した誘拐・人身売買。その背景には、貧困や男児偏重の価値観、そして人間を商品として扱う社会の現実があった。これは単なる犯罪の記録ではなく、何千、何万もの人生を奪った悲劇の記録であり、その残滓(ざんし)が現代にも残っているのである。

文/下川英馬 内外タイムス

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