中国の人身売買(第1回)失踪女性が26年後に救出…「独身男たちが性行為、連れてきた老人が金を受け取っていた」
中国で2000年に消息を絶った女性が26年ぶりに発見されたことが報道されている。農村で発見されたときの風貌が当時から激変していたことが話題となったセンセーショナルな事実の裏側には、精神障害を抱えた女性をめぐる家族内の軋轢(あつれき)、行政の機能不全という、より暗く複雑な問題が潜んでいる。
なお、本件に関して現時点で公的な調査結果は発表されておらず、依拠できる情報源も限られている。以下に言及する内容には関係者の一方的な主張が含まれており、実際に法的責任や犯罪が成立するかどうかは今後の司法判断を待つ必要があることを留意いただきたい。
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失踪から約4年後に夫が戸籍抹消
北京で1968年に生まれた孫美華(スン・メイホア)さん(58歳)は、2000年に北京の自宅から消息を絶った。
1996年頃、彼女は結婚ののち、女の子を出産。結婚前から精神科へ通院をしていた彼女だったが、家庭内での軋轢によって精神疾患が悪化、症状の浮き沈みに伴い姑や義姉との衝突が絶えなくなり、暴力を振るわれることすらあった。
2000年のある日、夫が突然に美華さんの実家を訪れ「美華を迎えに来た」と言った。実家で暮らしていた家族は言葉を失った。彼女は実家に戻ってきていなかったからだ。夫はそこで初めて真実を口にした。すでに1週間も前に彼女を実家に送ってきていたが、用事があったため、実家から約1キロ離れた交差点で彼女を降ろし、そのまま立ち去ったのだという。
家族は方々を捜索したものの手がかりはなく、当時の警察は証拠不足として刑事事件として立件しなかった。そして失踪から約4年後、夫によって孫美華さんの戸籍は抹消された。
美華さんの家族には当初から、夫側が意図的に妻を遺棄したのではないかと疑う声も上がっている。夫側の家族は美華さんの失踪に対して何の驚きも罪悪感も見せなかったのだ。
2023年、孫美華さんの父母が相次いで病没した。息を引き取る瞬間まで、老夫婦が娘の帰りを迎えることはなかった。
空のペットボトルが積み上がる荒れ果てた部屋で…
転機は2026年に訪れた。家族がSNSで、農村を配信するインフルエンサーが投稿した動画を見つけたのだ。山東省で撮影された動画には、髪を振り乱した高齢女性が、紙の上に父と兄の名を懸命に書き連ねる姿が映っていたのだ。

その少し前、インフルエンサーは情報提供者から「農村に30年近く前にだまされて連れてこられた女性がいる。当初は村や周辺地域の独身男たちが彼女と性行為に及び、彼女を連れてきた老人が金を受け取っていた。その後、彼女が年を取って買い手がつかなくなると、その老人と夫婦のような関係になった」という情報を得ていた。
インフルエンサーが美華さんを発見した当初、彼女は沈黙を守っていた。荒れ果てた部屋には空のペットボトルがテーブルいっぱいに積み上がり、布団や衣服が乱雑に折り重なっていた。そこが美華さんと老人が暮らす場所だった。

しかし日を重ねるにつれ、インフルエンサーは美華さんの特異な一面に気づいた。彼女は達筆な字を書くことができ、社交ダンスのようなステップを踏み、北京の地名を口にすることができたのだ。
1年が過ぎてもインフルエンサーは諦めず、美華さんから家族の情報を引き出し続けた結果、最終的に彼女に父と兄の名を書かせることができたのだ。
2026年5月にDNA型が一致し身元が確定。8月31日に現地の一時預かり施設に移送され、9月8日に実兄によって北京の実家へと連れ戻された。
偽名で身分証発行など行政手続きに不透明さも
現在、この事件で美華さんの家族は夫に保護責任者遺棄や人身売買への関与の疑いがあるとして、警察へ徹底した捜査と立件を要請している。
また、この事件では、現地当局が2020年に精神障害を抱える身元不明の女性に対して「張麗」という偽名で身分証を発行していた点や、DNA型が一致した後も3カ月以上にわたり現地にとどめ置かれていた点など、行政手続きの不透明さにも多くの疑問が残されている。
また、現在、中国のSNSでは関連する動画や投稿が削除されるなど、検閲の兆しも見られる。
この件に代表されるとおり中国では誘拐や人身売買が以前から社会問題となっている。日本で大きく報道された事件といえば、2022年の江蘇省で発見された、首を鎖でつながれた女性の事件だ。
次回は今年の3月に逮捕された、大物誘拐フィクサーを取り上げる。
文/下川英馬 内外タイムス






