中国のネットショッピングに粗悪なAI画像が氾濫、インプレ稼ぎ狙うも消費者の信頼は…
中国のネットショッピングで今、奇妙な現象が起こっている。
買い物アプリを開いた消費者が目にするのは魅力的なコーディネートではなく「AIホラー」と揶揄(やゆ)されるほど異質なAI女性モデルだ。
これまで、筆者は生活のあらゆる領域に生成AIが浸透した中国社会の様子を紹介してきた。
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なぜ、これほどAIが浸透した中国において、ここまで劣悪なAI画像が使われるのか。そこには熾烈(しれつ)な競争のなかで少しでも利益を増やそうとするネットショップの切実な事情があった。
売り場に並ぶ異様なAI画像
最近、中国のネットで「AIで生成された商品紹介が常軌を逸している」という投稿が話題を呼び、数百件もの報告が集まる事態となった。そこに並んでいるのは「販売実績〇〇件」と記された実際の商品の紹介画像だ。
写真を見れば、その異様さは一目瞭然だ。薄青のニットを羽織った、端正な顔立ちのモデル。一見すると自然な写真だが、よく観察すると、もう1本「第3の手」が存在する。

ヨガマットの画像では、人間の骨格では不可能な角度に首が曲がっている。

しかも、こうした異様な画像を使った売り場では、商品画像だけでなく購入者レビューの写真やライブコマースの配信画面に至るまで、すべてをAIでねつ造する「全AI化」の虚偽マーケティングが横行している。
コスト削減と広告アルゴリズムのカラクリ
なぜ店舗側は、一目でわかる粗雑な画像を修正もせずに放置するのか。その裏には、単なる技術不足ではなく「コスト削減・インプレッション稼ぎ」という店舗側の事情がある。
生身のモデルを起用して撮影を行えば、モデル代、スタジオ代、カメラマン代などで1日あたり3000元から1万元(約6万〜20万円)、1年で5万〜10万元のコストがかかる。
一方、AI画像生成を導入すれば、月間200〜300枚の画像を出力しても費用は月額2000元(約4万円)程度に収まる。画像1枚あたりの単価は、従来の50〜200元から、最低0.15元にまで圧縮される。2024年後半に実写撮影を全廃し、2025年だけで200万元以上の経費を浮かせた経営者もおり、そこで削減された予算はすべて各プラットフォームでの広告枠購入へと注ぎ込まれる。
現在の中国ネットショッピングでは、プラットフォームに広告費を払ってアルゴリズム上の優先表示枠を買わなければ、どれほど優れた商品であっても消費者の目にすら触れない状態になっている。
つまり、10万元かけて丁寧な写真を撮りながら広告費を出せない店舗より、1枚0.15元のAI画像を粗製乱造し、浮いた費用を丸ごと広告費に突っ込む店舗の方が、圧倒的な露出量によって売上が増えるのである。店舗にとってAI画像は「商品の魅力を伝えるカタログ」ではなく「アルゴリズムを回すための使い捨ての弾」に過ぎない。
また、インプレッション至上主義のアルゴリズムでは、画像の異常さすら集客の武器となる。AI画像が不気味すぎて消費者の目に留まるのも、アルゴリズムの目には良い商品が目に留まるのと同じインプレッションとして認識される。
驚いたユーザーがスクリーンショットを撮り、その画像を使ってSNSで批判すれば、それすら宣伝となって拡散を生む。こうして、低コストで粗悪な画像を量産し、炎上すらもアクセスに変えるサイクルが完成してしまったのだ。
むろん、プラットフォーム側も手をこまねいているわけではない。数週間で進化するAI技術に対し、審査基準の改定が追いついていなかったものの、近年では規制強化が進んでいる。
規制強化と消費者のAI離れ
プラットフォーム大手は、身体や顔の著しいゆがみを規制対象として明文化したり、AI生成コンテンツへのラベル付与を義務付けたりしている。また、AI生成によって実物と著しく異なる商品画像を提示することも厳禁となっている。
そして、こうしたAI画像の氾濫に対して、消費者もウンザリしている。
中国では「AI画像すらチェックしない業者が、コストのかかる生地や縫製をまじめに扱うはずがない」「AIによって浮いた費用は値下げにも品質向上にも使われず、業者の利益になっているだけ」という冷ややかな声が上がる。
結果として今、消費者の間ではかつての実写画像を懐かしむ現象が起きている。画質が粗く、背景に部屋の様子が写り込み、生身のモデルが写っている普通の写真の方が、少なくとも本物の人間が着た現実の姿がわかるだけ誠実という論理だ。
AIモデルが着た姿を見て購入した服が、届いてみれば全くの別物だったという落差が日常茶飯事となった今、中国のネットショップは自らが作り出した虚像によって、消費者の信頼という最も重要な資産を失いつつある。
文/下川英馬 内外タイムス






