コカイン使用で実刑判決の女に対する一部執行猶予とは 再犯防止へ刑法上と薬物法上の制度
東京都新宿区のトー横に出入りしていた20代の女が、覚醒剤やコカイン、ケタミンなどを使用した罪に問われた裁判で、裁判所は拘禁刑2年を言い渡し、そのうち6月の執行を2年間猶予した。猶予期間中は保護観察に付される。刑期の一部だけを執行猶予とするこの判決は、どのような制度に基づくものなのか。
判決によると、女は2025年9月、覚醒剤使用と麻薬使用の罪で懲役2年6月、執行猶予4年、保護観察付きの判決を受けた。しかし、その4か月後の2026年1月以降、コカインを摂取し、覚醒剤を使用した。
被告人質問の女は「怖い人に『部屋に来い』と言われ、新宿のラブホテルに一緒に泊まっていました。そのとき、パイプとストローを私の口に持ってこられました。私は手で払って拒否しましたが、それでもストローを向けてきたので、従うしかありませんでした。自宅でも1回、覚醒剤をやりました」と話した。
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また、コカインの使用については「大切な友だちが亡くなって、自暴自棄でした。新宿にいる黒人から『コカイン欲しいです』と言って買いました」と述べた。
裁判所は「複数の違法薬物の使用を安易に繰り返しており、動機、経緯に特段酌むべき点もない。前回の判決からわずか4カ月程度で再犯をしたことを踏まえると、違法薬物の親和性、依存性は否定できない。法を守る意識は希薄で、実刑は免れない」と判断した。
ただし、裁判所は、女が事実を認め反省していること、父親による監督の約束、若年であること、支援団体の助けや家族の支援が見込めることなどを総合的に考慮し、一部執行猶予の判決となった。
執行猶予について被告人質問でやりとりがあった。検察側が「執行猶予が歯止めにならなかったか?」とただすと、女は「保護観察所から連絡来なくなって、執行猶予をちゃんと考えられなくなりました」と答えた。
弁護側は「一部執行猶予を希望する」と主張したが、女が理解できていなかったため、裁判所が制度を説明した。女は「希望する」と明言していた。
事件自体は複雑な内容ではない。覚醒剤などの薬物を使ったのかどうかについて、被告人は争っていない。そのため、裁判上の争点は量刑のみだった。
判決公判では、女の知人である、トー横界隈(かいわい)の人たちも傍聴していた。「一部執行猶予」の制度に対する知識がない場合、複雑な判決のようにも聞こえたはずだ。
保護観察所の薬物再乱用防止プログラムなど義務付け
一部執行猶予とはどんな制度なのか。
アディーレ法律事務所の大垣優希弁護士は「一部執行猶予とは、判決で言い渡された拘禁刑の一部を実際に服役させ、残りの一部について1~5年間、執行を猶予することができる制度です。この一部執行猶予には、刑法上の制度と、薬物法(薬物使用等の罪を犯した者に対する刑の一部の執行猶予に関する法律)上の制度があります」と説明する。
刑法上の制度と薬物法上の制度があるというが、どのような場合が対象になるのか。「刑法上では、①初犯の者か、それに準ずる者で、②宣告された刑が3年以下の拘禁刑、③再犯防止のために必要かつ相当であることです。また、薬物法上では、④覚醒剤や大麻等の違法薬物の使用や所持の罪を犯し、刑法上の前科要件を満たさない者で、⑤刑法上の要件③に加えて、刑事施設における処遇に引き続き、薬物依存の改善に資する社会内処遇を実施する必要性があることが要件となっています」(大垣弁護士)
こうした制度を設けた目的は何か。
「保護観察というのは、薬物依存による再犯を防止し、対象者の社会復帰を支援するために、保護観察官や保護司の指導・監督の下で社会内処遇を行う制度です。薬物事犯では、刑務所での処遇だけでは依存症の改善が十分でなく、出所後に再び薬物に手を出してしまうおそれがあります。
そのため薬物法では、一部執行猶予を言い渡した場合には必ず保護観察に付し、保護観察所が実施する薬物再乱用防止プログラムへの参加や、医療機関・自助グループ等との連携を通じて、薬物依存の改善と再犯防止を図ることとされています」(同)
裁判所は一部執行猶予制度を適用することで、一定期間、刑務所で処遇した後、薬物再乱用防止プログラムなどの社会内処遇によって再犯防止を目指すということだ。
トー横だけでなく、薬物事犯は全国的な問題で増加傾向だ。2025年の統計では薬物事犯の検挙人員は15185人で、前年よりも1146人(8.16%)増加した。大麻事犯は7120人が検挙され、前年比で778人(12.3%)増えた。なかでも、30歳未満の覚醒剤事犯は、1237人で、前年比218人(21.4%)増加している現状だ。
国としては、薬物事犯の再犯防止を目指す。つまり、刑務所内での処遇だけでなく、保護観察所が行う薬物再乱用防止プログラムを通じて、社会復帰を目指すというものだ。それによって薬物乱用を防止しようとしている。
文/渋井哲也 内外タイムス






