【竹中平蔵の「悪名は無名に勝る」】サプライサイド経済学に学べ 積極財政は制度規制改革を伴って初めて機能する
10月11日付日本経済新聞に、興味深い記事が出た。高市政権が、それまでのリフレ政策を一転して否定し始めた、という内容だ。
具体的に高市早苗総理は24年9月の時点で「金利を今上げるのはあほやと思う」と発言していたのに対し、今年10月8日には「リフレ政策必要な局面ではない」と述べたのだ。同じようなトーンで、片山さつき財務大臣は「リフレ政策は高市首相の政権戦略と同じではない」と発言したというのだ。
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新聞記事が主として問題にしているのは日銀の金融政策に対する政府の姿勢であり、要するにそれまでの利上げ慎重論から方向転換したと述べている。そしてその背景に、市場からの圧力(長期金利の上昇傾向)と、アメリカからの圧力(ベッセント財務長官からのメッセージ)があったとする。同時に記事は、アメリカ政府や市場が、高市政策をリフレ促進型と理解されてきたのは従来の発言の蓄積によるものであり、簡単に方針転換と受け取られるかどうかには疑問を呈している。
アメリカの意図は、現状の行き過ぎた円安(相対的なドル高)はアメリカの利害に反するという点にあろう。また、日本のインフレ・金利上昇が大きくなれば、アメリカにも不都合な影響があるから、早めに金利を引き上げよ、というメッセージでもある。アメリカ国内の経済運営における最大の懸念は、インフレである。金利引き上げが遅れれば、後々の金利上昇は極めて大きくならざるを得ない(犠牲比率が大きい)という認識もあろう。
そもそも現状の日本の経済運営は、積極財政という言葉に示されるように「高圧経済」を目指している。財政金融政策ともに拡張的な方が好ましい、ということであろう。しかし懸念は、そもそも需給ギャップがほとんどゼロに近い中で財政金融政策から高圧をかければ、物価上昇が加速するという点だ。
そこで、経済の供給サイドを強くすることが求められる。最近(2026/9)の内閣府試算によれば、潜在成長率(供給力の伸び率)は0.6%(全要素生産性伸び0.4%、資本投入伸び0.2%)と低位に止まっている。
企業に投資減税をする方が優れている
高市首相は、ことあるごとに供給サイドを強くする、と発言している。この認識はまことに正しい。しかし、残念ながら現実の政策はそれと整合していない。
供給サイドを強くする政策としては、レーガン政権時代に議論され実践された「サプライサイド経済学」から学ぶべき点は多い。同政権で大統領経済諮問委員会委員長を務めたマーティン・フェルドシュタイン氏(ハーバード大学教授)らが唱えた考え方だ。そのエッセンスは、大きく3点あったと認識している。
民間活動を阻害しないように政府の規模を小さくしつつ、①投資減税による資本の増強②所得税減税による労働投入の拡大③規制緩和――である。こうした政策の効果についてもさまざまな評価があろうが、おおむね①の投資減税、③の規制緩和は効果があったこと、②の所得減税については効果が不明確であったこと、がコンセンサスである。
こうした考え、すなわち投資減税、所得減税、規制緩和は、残念ながら今の内閣の政策にはほとんど含まれていない。資本投入を増やす点については、17分野に対する官民投資370兆円が政策として掲げられている。
しかし、そもそも政府が補助金などを出しても、民間企業の設備投資がどれほど行われるかは分からない。それに、補助金を出すにあたって、どのプロジェクトが有望なのか、意味があるのか、政府にそれを目利きすることができるのだろうか。
それよりも、企業が有効と考える投資を尊重し、それに対する投資減税(投資税額控除)をする方が明らかに優れている。
サプライサイド政策の中で、規制緩和、より正確には制度・規制改革はとりわけ重要だ。しかし、この問題に対する政府の姿勢も残念ながら極めて弱い。企業が設備投資を行うにあたっても、その人材が不足している。現実に、人手不足による企業倒産が増加しており、移民を含めた抜本的な制度改革が必要だ。
成長産業であるライド・シェアは、タクシー業界の反対で一切認められていない。積極財政は、制度規制改革を伴って初めて有効に機能する。






